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22年前、ハスキーとハイトーンが重なった“2人の歌声” 未完成の共鳴ゆえの“至高のR&Bバラード”

  • 2026.2.16

2004年。街には折りたたみ式の携帯電話があふれ、液晶画面越しに短い言葉を交わし合っていた時代。冬の澄んだ空気が鼻腔をくすぐる頃、ラジオや街頭のスピーカーから流れてきたのは、あまりに滑らかで、それでいて胸の奥を締めつけるような二人の歌声だった。

CHEMISTRY『So In Vain』(作詞:Juve・作曲:為岡そのみ)――2004年2月4日発売

氷点下の夜に響く「二つの個質」

2001年の鮮烈なデビューから走り続け、瞬く間にトップアーティストの座を不動のものにしたCHEMISTRY。2004年という年は、初期の熱狂を越えた先にある「表現者としての成熟」を色濃く見せ始めた時期でもあった。

そんな中でリリースされた10枚目のシングルが、この楽曲である。この曲の最大の魅力は、なんといっても二人のボーカリストが織りなす圧倒的な「声のコントラスト」にあるだろう。

川畑要の芯が太く、どこか湿度を含んだハスキーな歌声。そこに、堂珍嘉邦の透明感あふれる、突き抜けるようなハイトーンが重なる。

単なるユニゾンではなく、互いの個性がぶつかり合い、溶け合うことで生まれる化学反応は、まさにユニット名の通りだった。静まり返った冬の夜に、二人の吐息が重なり合っていくような質感は、聴く者の孤独にそっと寄り添う力を持っていた

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2001年、東京・恵比寿ガーデンルームでライブをおこなったCHEMISTRY(C)SANKEI

削ぎ落とされた音が描く「余白の美」

楽曲全体を支配するのは、派手な装飾を削ぎ落とした、洗練されたR&Bのビートだ。

作曲を手がけたのは、繊細なメロディラインに定評のある為岡そのみ。そして、その楽曲を益田トッシュが、極上の質感を持つサウンドへと編み上げている。

当時のJ-POPシーンでは、厚みのあるサウンドが主流だったが、この曲には不思議な「余白」が存在していた。その余白があるからこそ、Juveによる言葉のひとつひとつが、聴き手の心象風景の中にゆっくりと沈み込んでいく。

盛り上がりを急ぐのではなく、淡々と、しかし確実に感情の温度を上げていくドラマティックな構成。サビに向かって高まっていく高揚感と、それとは対照的に消えてしまいそうな儚さが同居している。

「無機質な都会」と「有機的な歌声」という対比が、聴く者の心に、忘れかけていた記憶を呼び起こさせるのだ。

季節が巡るたびに蘇る「あの日の温度」

2004年当時、この曲を聴きながら私たちは何を思っていたのだろうか。冬の冷たい風に吹かれながら、誰かを待っていた時間。あるいは、一人で深夜の高速道路を走り抜けていた瞬間。

音楽は、その時の気温や空気の匂いまでも一緒にパッケージして、記憶の引き出しにしまってくれる。この楽曲には、そんな「時間を取り込む魔法」がかけられているような気がしてならない。

あれから20年以上の月日が流れ、音楽を取り巻く環境も、人々の繋がり方も大きく変わった。それでも、冬が来るたびにこの旋律を求めてしまうのは、そこに嘘のない感情の震えが刻まれているからだろう。

完成されているのに、どこか「未完成」な切なさを残したまま、あの二人の歌声は今も私たちの心の中で鳴り続けている。

静寂の中に灯る、小さな火のような一曲。それが、22年経っても色褪せることのない、このバラードの正体なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。