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40年前、清純な瞳に秘められた“危うい背伸び” 甘い声が描き出した“春の幻想的な一曲”

  • 2026.2.14

新しい時代への期待が膨らむ1986年の3月。街には淡いピンク色の花びらが舞い始め、音楽番組からは次々と新しい歌声が届けられていた。そんな季節の変わり目に、一つの鮮烈な輝きを放つ楽曲がリリースされた。

志村香『危険がいっぱい』(作詞:小坂明子・作曲:馬飼野康二)――1986年3月21日発売

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Google Geminiにて作成(イメージ)

この曲は、清純派アイドルとして注目を集めていた彼女が放った、4枚目のシングルだ。デビュー当時の瑞々しさを保ちながらも、少しずつ大人の階段を登ろうとする少女の揺れ動く感情が、ドラマティックな旋律の中に封じ込められている。

スクリーンから飛び出した透明感

志村香は、1984年に行われた映画『パンツの穴』第2作目のオーディションにおいて、ヒロインの座を射止め、芸能界入り。翌1985年4月、映画『パンツの穴 花柄畑でインプット』で主役デビューを飾ると同時に、シングル『曇り、のち晴れ』で歌手としての歩みもスタートさせる。彼女の最大の魅力は、守ってあげたくなるような繊細なビジュアルと、どこか憂いを含んだ甘く柔らかな歌声にある。

1986年当時は、まさに女性アイドル黄金時代の真っ只中。個性がぶつかり合う時代において、彼女が持っていた「清楚で少し内気な少女」というキャラクターは、多くのリスナーにとって安らぎであり、同時に目が離せない存在でもあった。この楽曲『危険がいっぱい』は、そんな彼女のパブリックイメージを活かしつつ、タイトルにあるような「危うさ」というスパイスを加えることで、新たな表現の扉を叩いた作品だ。

豪華制作陣が仕掛けた“静かなるドラマ”

この楽曲の深みを支えているのは、日本のポップス界を代表する名手たちの手腕だ。作詞を手がけたのは、自身もシンガーソングライターとして不朽の名曲を持つ小坂明子。少女の独占欲や背伸びした恋心を、気品を保った言葉で綴っている。

そして作曲は、数多のヒット曲を世に送り出してきた馬飼野康二。さらに編曲には、華やかで厚みのあるサウンドメイクに定評のある船山基紀という、今考えればあまりに贅沢な布陣が名を連ねている。

イントロが鳴り響いた瞬間、リスナーは一気に1986年の春の空気へと引き戻されるだろう。当時の先端を行くデジタルシンセのサウンド。そこに志村香の震えるような繊細なボーカルが乗ることで、楽曲に命が吹き込まれる。決してパワフルに声を張り上げるわけではない。しかし、その控えめな表現の中にこそ、言葉にできない恋の切実さが宿っているのだ。

記憶の片隅でずっと鳴り続ける春の旋律

40年という月日が流れた今、音楽の聴き方も、流行のスタイルも大きく変わった。それでも、この『危険がいっぱい』という楽曲が色褪せないのは、そこに「一瞬の輝き」が完璧な形で保存されているからだろう。アイドルとしての瑞々しい生命感と、制作陣によるプロフェッショナルな職人技が、奇跡的なバランスで融合している。

春の柔らかな日差しの中で、ふとした瞬間に口ずさんでしまうような親しみやすさ。そして、聴き終わった後に残る、少しだけ胸が締め付けられるような余韻。それは、かつて私たちが通り過ぎてきた「青い時代」そのものの手触りかもしれない。

1986年のあの日、ラジオやテレビから流れてきたこの曲を聴いて、私たちは何を夢見ていただろうか。時代がどんなに加速しても、この穏やかで、それでいて情熱的な旋律は、聴くたびにあの頃のまっすぐな気持ちを思い出させてくれる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。