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27年前、デジタルと温もりが交差した“サスペンスドラマ主題歌” 30万ヒットの名バラードとは

  • 2026.2.13

1999年という年は、日本人にとって少し特別な響きを持っていた。90年代が終わりを迎えようとする中、街にはノストラダムスの予言や2000年問題への漠然とした不安が漂い、それでいて新しいミレニアムへの期待を捨てきれない、どこかそわそわとした冬だった。そんな寒さの厳しい季節、人々の心に静かに、けれど深く染み渡っていった一曲があった。

Every Little Thing『Over and Over』(作詞・作曲:五十嵐充)――1999年1月27日発売

当時、すでにJ-POPシーンの最前線を走っていたEvery Little Thingが、11枚目のシングルとして放ったこの曲は、それまでの彼らのイメージをさらに奥深く、成熟させた一曲だった。

凍てつく夜に灯された、小さな明かりのように

Every Little Thingといえば、当時の多くの若者にとって、日常の景色を鮮やかに彩ってくれる存在だった。持田香織のどこまでも突き抜けるようなハイトーンボイスと、五十嵐充が生み出すキャッチーでデジタルなサウンド。その絶妙なバランスは、90年代後半の音楽シーンに欠かせない要素となっていた。

しかし、この『Over and Over』が提示したのは、単なるポップスとしての輝きだけではない。静寂の中にポツリと灯った明かりのように、聴く者の孤独に寄り添うような、深い包容力を持ったバラードだった

イントロが流れた瞬間、目の前に冬の澄んだ夜空が広がるような感覚に陥る。派手な装飾を削ぎ落とし、言葉の一つひとつを噛みしめるように歌い上げる持田香織のボーカルは、聴く側の心の奥底にある、普段は見せない柔らかい部分に触れてくるようだった。この曲が30万枚を超えるヒットを記録し、多くの人々に支持されたのは、当時の人々が心のどこかで、こうした「静かな安らぎ」を求めていたからに違いない。

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Every Little Thingのコンサートより-1998年撮影(C)SANKEI

デジタルと温もりが交差する、唯一無二の静寂

この楽曲の魅力を語る上で欠かせないのが、リーダーでありプロデューサーでもあった五十嵐充の手腕だ。彼の作るサウンドは、シンセサイザーを多用したデジタルな質感を持ちながら、なぜか血の通った温かさを感じさせる。この曲でも、流麗なストリングスの響きと、時折重なるアコースティックな音色が、冬の冷たさと部屋の中の温もりを同時に表現しているかのようだ。

また、タイアップとなったドラマ『ボーダー 犯罪心理捜査ファイル』の重厚な世界観とも、この曲は見事な共鳴を見せていた。 犯罪心理を扱うという緊迫したドラマの内容に対し、エンディングで流れるこの曲の穏やかな旋律は、観る者の波立った感情を鎮める「救い」のような役割を果たしていた。激しさと静けさ、その境界線で鳴り響く音こそが、この時代の彼らにしか出せない特別な温度感だったといえるだろう。

繰り返される言葉が、確かな力に変わる瞬間

『Over and Over』というタイトルが示す通り、この曲には「繰り返し」の中に宿る希望が描かれている。私たちは日々、同じような迷いを抱え、同じような壁にぶつかりながら生きている。けれど、その「繰り返し」は決して無意味な円環ではなく、少しずつ、螺旋を描くように上へと向かっているのだと、この曲は教えてくれている気がする。

当時、この曲を引っ提げて彼らは3回目となる『NHK紅白歌合戦』のステージにも立った。 大晦日の夜、日本中の視線が集まる中で披露されたその歌声は、一年の締めくくりに相応しい、凛とした美しさに満ちていた。テレビの画面越しにその姿を見つめながら、「明日からもまた頑張ろう」と静かに決意した人も少なくなかったはずだ。

あれから27年という長い月日が流れた。音楽を聴く環境も、私たちのライフスタイルも大きく変わったが、冬の冷え込みが厳しくなるたびに、ふとこの旋律を口ずさみたくなるのはなぜだろうか。それはこの曲が、時代を超えて普遍的な価値を持ち続けているからに他ならない。

今夜、もし窓の外に冬の星空が見えるなら、久しぶりにこの名曲に耳を傾けてみてはどうだろうか。あの頃の自分と、今の自分が、時を越えて静かにつながるような、そんな不思議で温かい感覚に包まれるはずだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。