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32年前、大人気バンドが放った“80万ヒット” 「静」と「動」の二面生をもった”ドラマティックな一曲

  • 2026.2.13

1994年2月。街の喧騒はどこか遠く、人々はテレビの前で息を呑むようなミステリーに酔いしれていた。人々の関心が「外側の虚飾」から「内側の真実」へと移ろい始めた、あの独特な転換期 。 そんな凍てつくような空気の中、静かに、そして激しく、私たちの心に火をつけた名曲がある。

ZARD『この愛に泳ぎ疲れても』(作詞:坂井泉水・作曲:織田哲郎)――1994年2月2日発売

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Google Geminiにて作成(イメージ)

ピアノが奏でる、凍てついた夜のサスペンス

イントロが流れた瞬間、部屋の空気がフッと冷たく澄み渡るような錯覚に陥る。この曲の幕開けは、あまりにも繊細で孤独なピアノの旋律だ。静寂の中で、坂井泉水の透き通った歌声が、そっと誰にも言えない秘密を打ち明けるように響き出す。

この楽曲は、フジテレビ系のドラマ『愛と疑惑のサスペンス』のオープニングテーマとして届けられた。緊張感あふれる物語に、この曲が流れるたびに、私たちは日常から切り離され、非日常のドラマへと引き込まれていったのだ。

1番のセクションでは、ゆったりとしたミディアムテンポに乗せて、切なさと凛とした強さが同居するようなメロディが紡がれていく。

当時のZARDは、すでに時代のアイコンとなっていたけれど、この曲で見せた「影」の表現は、それまでのヒット曲とは一線を画していた。 ただ明るいだけではない、大人の女性が抱える深い葛藤を、その抑制されたボーカルで見事に描き出していたのだ

均衡を破り、激流へと身を投じる瞬間の衝撃

しかし、この曲の真の姿は、そこから先にある。1番のサビが終った瞬間に訪れる「変化」に、当時の誰もが驚きを隠せなかったはずだ。それまでの静けさを激しく叩き割るように、鋭いギターサウンドと疾走感あふれるドラムが炸裂し、楽曲は狂おしいほどの熱量を持って加速を始める。

単なるバラードでも、単なるロックでもない。一つの楽曲の中で「静」から「動」へと劇的なメタモルフォーゼを遂げるその構成は、まるで平穏な日常が突如として激しい運命に飲み込まれていくドラマそのもののようだった

さらに、2番以降ではキーが上がり、坂井泉水のボーカルも感情の防波堤が決壊したかのような力強さを帯びていく。

この魔法のような展開を支えていたのが、稀代のメロディメーカー・織田哲郎と、緻密な音作りで知られる編曲家・明石昌夫のタッグだ。

キャッチーでありながら、どこか中毒性のあるメロディ。そこにエッジの効いたデジタルな質感とロックのダイナミズムが融合することで、ZARDにしか出せない「都会的な焦燥感」が完成したのだ。

80万枚の記憶が、今も胸の奥で熱を帯びる

この鮮烈な二面性を持つ楽曲は、瞬く間に日本中を席巻した。ランキングでは見事に初登場1位を獲得し、最終的なセールスは80万枚を超える大ヒットを記録した。

当時はCDショップの店頭で、あるいは街角の有線放送から、この劇的なテンポチェンジが幾度となく流れていたことを、今でも鮮明に思い出せる。

坂井泉水が綴る言葉たちは、決して誰かを突き放すことはない。どんなに「愛に泳ぎ疲れて」も、その歌声の最後には、一筋の光を掴み取ろうとする確かな意志が宿っている。

だからこそ、私たちは彼女の歌に自分自身の迷いを重ね、前を向くための静かな勇気を分けてもらっていたのかもしれない。

32年という歳月が流れた今でも、この曲を聴くと、あの加速する瞬間の高揚感が昨日のことのように蘇る。時代がどれほど移り変わっても、人間の心の中にある「静かな情熱」は変わることがない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。