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27年前、3枚同時リリースした“異例のメジャーデビュー” “伝説”がプロデュースした一曲

  • 2026.1.29

1999年1月。世の中は「ミレニアム」や「世紀末」という言葉に浮き足立ちながらも、日常はどこか淡々と、そして確実に新しい時代へと向かって流れていた。街のCDショップには、毎日のように新しい才能が並び、私たちはまだ見ぬ音楽を必死に探していた。そんな空気の中で、決して派手な宣伝に頼ることなく、静かに、けれど圧倒的な存在感を持って解き放たれた1曲がある。

Dir en grey『ゆらめき』(作詞:京・作曲:Shinya)――1999年1月20日発売

のちに世界を股にかけ、唯一無二の表現者として君臨することになる彼らが、メジャーという大きな舞台へ足を踏み出した瞬間。その出発点となったのは、驚くほど抑制された美しさを湛えた楽曲だった。

痛みを抱えたまま佇む“静寂の衝撃”

Dir en greyのメジャーデビューは、あまりにも鮮烈だった。1999年1月20日、『ゆらめき』『アクロの丘』『残-ZAN-』という、まったく色彩の異なるシングル3枚を同時リリース。この異例の試みは、当時の音楽シーンに大きな衝撃を与えた。中でもこの楽曲は、バンドの持つ“静”の側面と、心の奥深くに沈殿するような叙情性を象徴していたといえる。

冒頭、ピアノの上に乗る京のボーカルは繊細で、聴く者の心を一瞬にして、まだ誰もいない冬の朝のような透明な孤独へと連れ去っていく。作曲を担当したShinyaによる旋律は、過度な装飾を排し、旋律そのものが持つ説得力で勝負している。「激しさ」や「過激さ」という記号に頼らずとも、音と言葉だけで十分に世界を構築できる。 そんな彼らの音楽的プライドが、この1曲には静かに、しかし力強く宿っているのだ。

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2014年、東京・台場でのライブより(C)SANKEI

プロデューサーが引き出した“結晶のような旋律”

プロデュースしたのは、X JAPANのYOSHIKIだ。当時の彼はすでに日本を代表する音楽家としての地位を確立していたが、Dir en greyという未知の熱量を持ったバンドに対し、彼はあえて「削ぎ落とす美学」を提示したように思える。

『ゆらめき』の編曲は、YOSHIKIとDir en greyの連名によるもの。ピアノやストリングスを多用してドラマティックに仕立て上げるのではなく、バンドサウンドの骨格を活かしながら、一つひとつの音を磨き上げるような作業が行われたことがうかがえる。ボーカル・京の声もまた、感情を爆発させるのではなく、壊れそうなものをそっと抱え込むような繊細さを保っている。 その絶妙なバランスこそが、この曲を単なるロックソングの枠に留めず、時代を超えて愛される「名曲」へと昇華させたのだ。

27年経っても色褪せない“ゆらめき”の正体

3シングルの中では、『残-ZAN-』のインパクトを覚えている人も少なくないと思うが、『ゆらめき』は、3曲の中で親しみやすく、かつ深淵な魅力を持っていた。激しいパフォーマンスの裏側にある“美しき旋律”が、より広い層へと届いていくきっかけとなった。それは、流行という波に流されるのではなく、自らの足元を深く掘り下げた結果、普遍的な感情に到達した瞬間だった。

今、改めてこの曲を聴き返してみると、そこには1999年という時代の境界線に立っていた彼らの「覚悟」が、そのまま封じ込められていることに気づかされる。何かが終わり、何かが始まろうとしていたあの冬。混沌とした世界の中で、自分の居場所を探していたリスナーにとって、この曲はそっと寄り添ってくれる「共犯者」のような存在だったのかもしれない。

時代は変わり、音楽の聴き方も、届け方も大きく変わった。それでも、静かな夜にヘッドフォンから流れてくるこの旋律に触れるとき、私たちはあの頃の、少しだけ尖っていた自分自身を思い出す。派手な光ではなく、微かな灯火に惹かれる人間の本能。 『ゆらめき』という曲が今なお色褪せないのは、それが私たちの心の奥底にある、言葉にできない寂しさを、最も美しく描き出しているからに他ならない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。