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20年前、“疾走感”に背中を押された“応援歌” “エロかっこいい”の裏に隠れた真髄

  • 2026.1.29

2006年2月。街はトリノ・オリンピックの熱狂に包まれ、テレビからは連日、氷上を駆けるアスリートたちの姿が流れていた。そんな興奮を鮮やかに彩っていたのが、一人の歌姫が放った力強い歌声だった。

倖田來未『WIND』(作詞:Kumi Koda、Kosuke Morimoto・作曲:Kosuke Morimoto)――2006年2月15日発売

当時、彼女は前代未聞の「12週連続シングルリリース」という壮大なプロジェクトの真っ只中にいた。本作はその第11弾。企画のクライマックスを目前に控え、日本中が「次はどんな一曲が届くのか」と固唾を呑んで見守っていた時期に届けられた、最高にポジティブな応援歌だ。

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2006年、「第20回日本ゴールドディスク大賞」で歌う倖田來未(C)SANKEI

時代を象徴する“エロかっこいい”の真髄

当時の彼女といえば、「エロかっこいい」という言葉を流行語にするほどの社会現象を巻き起こしていた。派手なビジュアルや刺激的なパフォーマンスが注目されがちだったが、その表現の根底には、常に「ひたむきな力強さ」が宿っていた

この『WIND』という楽曲は、まさにその内面的な輝きが溢れ出したような一曲だ。

サウンド面を支えたのは、数々のヒット曲を手がけてきた名アレンジャー・h-wonder。森元康介の描く爽やかなメロディを、h-wonderの構築する緻密でいてエネルギッシュな音作りが、彼女のハスキーかつ伸びやかな歌声と見事に融合している。

聴く者の心を解き放つような、軽やかでいて芯の通った響き。それは、冬の終わりと春の予感を感じさせる、希望に満ちた空気感そのものだった

記録よりも深く、記憶に刻まれた“風”

この楽曲が多くの人の胸を打ったのは、単なるタイアップ曲という枠を超え、聴く人それぞれの「挑戦」に重なったからだろう。

前向きな言葉たちが連なる中、過剰な感情を削ぎ落とした彼女のボーカルは、どこまでもフラットで温かい。寄り添うのではなく、共に前を向いて走ってくれるような潔さがある。その温度感こそが、厳しい冬を乗り越えようとする人々に、そっと力を与えていたのだ。

振り返れば、あの12週連続リリースという試みは、アーティストとしての限界に挑む彼女自身の戦いでもあった。その終盤に置かれたこの曲が、誰かを励ます「風」となったことは、決して偶然ではない。

時が経ち、街の景色も音楽の聴き方も変わった。けれど、ふとした瞬間にこの旋律が流れてくれば、あの頃に抱いていた「どこへでも行ける」という根拠のない自信が、昨日のことのように蘇る。

静かに、けれど確実に。あの冬に吹いた風は、今も私たちの記憶の中で、爽やかに鳴り続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。