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35年前、“正論”を軽やかに歌った“アニメソング” 説教くさくない“軽快なリアリズム”

  • 2026.1.17

テストがなければ学校は楽しい場所で、窓の外ばかり眺めていた……そんな感覚に、思わず苦笑してしまう人も多いのではないだろうか。1991年の街には、軽やかさと、少しの気楽さが混ざり合った空気が漂っていた。

真面目さよりもノリの良さ、深刻さよりも明るさが優先されていた時代。その空気を、そのまま音楽に閉じ込めたような1曲が、この年に届けられている。

森高千里『勉強の歌』(作詞:森高千里・作曲:斉藤英夫)――1991年2月10日発売

日常の延長線にあった“12枚目の現在地”

『勉強の歌』は、森高千里にとって12枚目のシングル。ポップで親しみやすく、どこか生活感のある世界観のある楽曲だ。この時期の森高が持っていた等身大の感覚を、最も分かりやすく提示した1曲と言える。

森高自身が手がける詞は、抽象的な比喩やドラマティックな物語に寄りかかることなく、日常の感情や実感を、そのまま言葉にする強さを持っている。『勉強の歌』でもそれは一貫しており、学生時代の後悔や、あとから気づく現実的な教訓が、軽やかな言葉で並べられていく。

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森高千里コンサートより-1989年撮影(C)SANKEI

軽快なのに、妙に説得力がある理由

この曲の最大の魅力は、「勉強はしないよりもしておいたほうがいいわ」と、正論なのに、まったく説教くさくならない点にある。内容だけを見れば、言っていることは極めて真っ当だ。しかし、それを深刻なトーンではなく、あくまで明るく、少し自嘲気味に歌うことで、聴き手は自然と受け入れてしまう。

斉藤英夫によるサウンドは、テンポ感のあるポップスとして非常に分かりやすい構成だ。リズムは軽快で、メロディも覚えやすい。だからこそ、言葉が前に出すぎず、音楽としての心地よさが保たれている。森高のボーカルも、過剰に感情を込めることなく、淡々としながらも表情豊か。その距離感が、この楽曲を“重たくならない正論ソング”に仕立てている

結果として、『勉強の歌』は、聴き終わったあとに何かを突きつけられた気分にはならない。それでも、ふとした瞬間にフレーズが頭をよぎり、「あ、あれって本当だよな」と思わせる余韻を残す。

アニメ主題歌として届いた、意外なリアリティ

この楽曲は、日本テレビ系アニメ『おちゃめなふたご クレア学院物語』のオープニング・テーマとしても使用された。明るくポップなアニメ作品の入口として、『勉強の歌』の持つ軽快さは非常に相性が良かった。

一方で、アニメというフィルターを通して聴くことで、楽曲のメッセージはより柔らかく、生活に近いものとして届いた側面もある。大げさな夢や理想ではなく、日常の延長線にある現実。だからこそ、子どもにも大人にも引っかかる、不思議な普遍性を獲得した。

“森高千里らしさ”が自然体で鳴っていた時代

1991年という時代は、森高千里が「キャラクター」と「アーティスト性」のバランスを、最も自然に保っていた頃でもある。ユーモアがあり、明るく、でもどこか現実的。その感覚が、『勉強の歌』には無理なく詰まっている。

派手な代表曲として語られることは少ないかもしれない。しかし、生活の中に溶け込み、ふとした瞬間に思い出されるという点で、この曲は確実に役割を果たしてきた。笑って聴けるのに、どこか耳が痛い。その絶妙な距離感こそが、この楽曲が35年経っても色褪せない理由なのだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。