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20年前、“激しさ”を捨てた“素朴なロック” “終わり”を否定した卒業ソング

  • 2026.1.16

「20年前の春、あなたが最後に教室の扉を閉めたとき、どんな空の色を覚えていますか?」

2006年2月。新しい生活への期待と、慣れ親しんだ場所を離れる寂しさが混ざり合い、街全体がどことなくそわそわとした空気に包まれていた。桜のつぼみが膨らみ始める少し前、ある5人組のロックバンドが、切なくも温かい旋律を届けてくれた。

Janne Da Arc『振り向けば…』(作詞:yasu・作曲:ka-yu)――2006年2月8日発売

派手な演出や攻撃的なサウンドではない。それでもこの曲は、卒業という人生の節目に立つ人々の心に寄り添い、「また会える」という確かな希望を灯した。彼らが紡いだ音と言葉は、20年という時を経てもなお、当時の記憶を鮮明に呼び起こす力を持っている。

放課後の静寂を包み込む柔らかな旋律

この時期のJanne Da Arcは、すでに数々のヒットを飛ばし、ライブシーンでも圧倒的な存在感を放っていた。

激しいギターサウンドやテクニカルなアンサンブルが彼らの代名詞でもあったが、この楽曲で見せた表情は、驚くほど素朴で、そして優しい。楽曲の核心にあるのは、聴く者を優しく包み込むような音色と、yasuの透明感あふれるボーカルだ。

これまでの「攻め」の姿勢をあえて封印し、一音一音に想いを込めるような丁寧なアプローチが、別れゆく季節の切なさを際立たせている。そこに加わる弦楽器の調べは、まるで校舎の影がゆっくりと伸びていく放課後の時間軸を表しているかのようだ。

特に、作曲を担当したka-yuによるメロディラインは、派手な高低差を避けながらも、感情の揺れ動きを見事に捉えている。サビに向かって高まっていくその構成は、言葉にできない寂しさが溢れ出してしまう瞬間の心象風景と重なり、聴く者の涙腺を静かに刺激する

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2006年、大阪・難波ROCKETSでライブをおこなったJanne Da Arc(C)SANKEI

故郷の風景から生まれた“僕たち”の記録

この『振り向けば…』は、彼ら自身のルーツとも深く関わっている。

メンバー全員が大阪府枚方市の出身である彼らにとって、この楽曲は自らの原風景を投影した、非常にパーソナルな作品でもあった。実際に、メンバーの出身校を舞台にし、出演した映画『HIRAKATA』の主題歌としても起用されており、作品の世界観と密接に響き合っている。

「卒業」という普遍的なテーマを扱いながら、どこか特定の場所の空気感を感じさせるのは、そこに彼らが実際に見てきた景色や、過ごした時間が宿っているからだろう。

夕暮れの教室、誰もいない音楽室、そして仲間と語り合った通学路。

そうした具体的な情景が音楽を通じて立ち上がってくるからこそ、聴き手は自分の過去とこの曲を、自然と重ね合わせてしまうのだ。

また、編曲においてもそのこだわりは随所に見られる。楽曲の盛り上がりに合わせて厚みを増していくサウンドは、ただ悲しみに浸るためではなく、前を向くための強さを内包している。それは、別れが終わりではなく、新しい始まりであるという彼らなりのメッセージだったのかもしれない。

時代を越えて響き続ける、約束の言葉

2006年という時代は、一度離れれば連絡が途切れてしまうかもしれないという不安が、今よりも少しだけ重かった時代だ。だからこそ、この曲に込められた「再会」への願いは、当時の若者たちにとって何よりも心強いお守りのような存在だった。

今、改めてこの曲を聴くと、当時の自分たちが抱えていた未熟さや、無垢な志がふと蘇る。

あれから20年。僕たちが歩んできた道は、あの頃思い描いていたものとは違うかもしれない。それでも、ふとした瞬間にこのメロディが流れてくれば、一瞬であの春の日に戻ることができる。

『振り向けば…』というタイトルが示す通り、過去を振り返ることは決して後ろ向きなことではない。それは、今の自分を支えてくれている「あの日」の絆を確かめるための大切な儀式なのだ。

冷たい冬の空気が和らぎ、春の足音が聞こえてくるたびに、この曲はこれからも私たちの背中をそっと押し続けてくれるだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。