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35年前、人気俳優が放った“50万枚ヒット” CMソングなのに心に残るワケ

  • 2026.1.15

1991年2月。街のネオンは明るく、人々の表情もどこか浮ついていた。けれどその裏側で、気持ちをうまく言葉にできない不安や、踏み出せない感情を抱えた夜も、確かに存在していた。そんな時代の空気を、静かにすくい取るように鳴っていたのが、この一曲だった。

織田裕二『歌えなかったラヴ・ソング』(作詞:真名杏樹・作曲:都志見隆)――1991年2月6日発売

俳優・織田裕二が放った、3枚目のシングルという転機

織田裕二といえば、当時すでに映画やドラマで強い存在感を放つ俳優だった。その彼が、音楽活動でも着実に歩みを進める中でリリースしたのが、3枚目のシングルとなる本作である。

前2作で築いた勢いを背景にしつつも、この曲では派手なアプローチを選ばず、感情の内側にそっと触れるような表現が前面に押し出されていた。

スズキ「セルボ・モード」のCMソングとして使用されたこともあり、楽曲はテレビを通して幅広い層に浸透。結果として、セールスは50万枚を超えるヒットを記録する。だがその広がり方は、瞬間的な爆発というよりも、生活の中に静かに入り込むようなものだった。

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1990年、フジテレビ系ドラマ『東京ラブストーリー』制作発表に出席した織田裕二(C)SANKEI

声が語る、“強がらない男”のリアリティ

都志見隆によるメロディは、過剰な盛り上がりを抑えた構成で、自然な起伏を描く。その上に、松本晃彦の編曲が加わることで、都会的で洗練されながらも、どこか体温を感じさせるサウンドが完成している。

そして何より、織田裕二のボーカルだ。技巧を誇示するタイプではないが、不器用さやためらいを含んだ声質が、この楽曲の世界観と強く結びついている。感情を押し出さないからこそ、聴き手はその奥にある想いを自然と感じ取ってしまう。

CMソングでありながら、心に残った理由

CMソングという枠組みは、ともすれば軽やかさや即効性が求められがちだ。しかし『歌えなかったラヴ・ソング』は、その文脈に回収されきらない“余白”を持っていた。

それは、90年代初頭という時代が抱え始めていた、表と裏の感情のズレとも重なる。明るさの裏で、誰もが少しずつ立ち止まり始めていた頃。この曲は、そんな心の揺れに静かに寄り添っていたのだ。

言葉にできない想いが、時代を越えて残る

35年が経った今、恋愛の形も、感情の伝え方も大きく変わった。それでも、胸の奥で言葉にできずに留まる気持ちは、決して消えていない。

『歌えなかったラヴ・ソング』は、その普遍的な感情を、決して大声で語らず、静かな温度のまま残してくれた一曲だった。

夜の街でふと流れてきたとき、思い出すのは、強がっていた自分や、伝えそびれた想い。

この曲が今も胸に残るのは、あの頃の“不器用な心”を、そっと肯定してくれるからなのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。