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30年前、ユニット生存の危機に瀕していた“4人” ブレイク曲となったワケ

  • 2026.1.9

1996年2月。街にはまだ冷たい風が残りつつも、音楽シーンだけは確実に“次の熱”を探していた。J-POPは多様化し、ダンスミュージックも輸入型から国産へと移行しつつあった時代。その流れの中で、突如として耳を支配するスピード感と高揚感をまとった一曲が現れる。

MAX『TORA TORA TORA』(日本語詞:鈴木計見・作曲:TIGER BOYS)――1996年2月21日発売

ユーロビートというジャンルを、単なる流行や企画物で終わらせず、“この4人の名前”と結びつけた瞬間だった。

走り出した音、引き返せなかった現実

『TORA TORA TORA』は、MAXにとって3枚目のシングル。イタリアのユーロビート・ユニット、Dominoの楽曲を原曲としたカバー作品である。だが、この曲を「流行に乗ったカバー」とだけ捉えるのは、あまりに表層的だ。

当時のMAXは、デビュー直後の期待と不安がせめぎ合う立場にあった。グループとしての方向性、マーケットでの立ち位置、そして“次がなければ終わり”という現実。事務所の社長から「これが売れなかったら沖縄に帰す」と告げられていた、というエピソードはよく知られているが、それは決して誇張された演出ではなかった。

この曲は、挑戦ではなく、生き残るための選択だった。

躊躇のないスピードが生んだ説得力

『TORA TORA TORA』の最大の特徴は、その“迷いのなさ”にある。イントロから一気に加速し、立ち止まる余白を一切与えない構成。BPMの速さだけでなく、ボーカルの置き方、コーラスの重なり、リズムの押し出し方まで、すべてが前傾姿勢で設計されている。

TIGER BOYSによるサウンドは、当時のユーロビート文脈に忠実でありながら、MAXの声質と年齢感にフィットしていた。4人のボーカルは、誰かが突出することなく、ユニゾンと掛け合いを繰り返しながら“集団としての熱量”を形成していく。

そこには、可憐さや余裕よりも、切迫したエネルギーがある。だからこそ、この曲はフロア仕様でありながら、どこか必死で、リアルだった。

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1995年、映画『麗霆゛子 レディース!!MAX』で取材をうける女暴走族を熱演したMAX(C)SANKEI

「ブレイク曲」と呼ばれる理由

『TORA TORA TORA』は、結果としてMAXのブレイク曲となる。メディアへの露出も増え、一気に認知を広げた。だが重要なのは、単に“売れた”という事実以上に、この曲がMAXのイメージを決定づけた点にある。

ユーロビートを本気で歌い、踊り切る女性グループ。そのスタイルは、その後のMAXの活動を支える基盤となった。主演映画『麗霆゛子 レディース!!MAX』の主題歌にも起用されたが、映画自体のヒット云々よりも、楽曲が持つ推進力の方が強く記憶に残っている。

この曲がなければ、その後のMAXは存在しなかった。

そう言っても、決して大げさではない。

逃げ場のない状況が生んだ、強度

『TORA TORA TORA』が30年経った今も語られる理由は、音楽的な完成度だけではない。そこに刻まれているのは、「後がない」状況でしか生まれない集中力と覚悟だ。

余裕がないからこそ、全力で振り切る。中途半端なアレンジも、曖昧な立ち位置も許されない。その緊張感が、結果として作品の強度を引き上げた。

時代が変わった今でも、この曲を耳にすると、身体が自然と反応してしまう。それはきっと、音の奥に“本気で掴みにいった瞬間”が封じ込められているからだろう。

30年前、MAXは走り出した。そして、『TORA TORA TORA』は、その一歩目として、今も強く鳴り続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。