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25年前、30万枚売り上げた“未熟な高揚” 普遍的ソングがヒットしたワケ

  • 2026.1.9

2001年の街は、まだ少しだけ余裕を残していた。連絡を取ることにも、気持ちを伝えることにも、ほんのわずかな“間”があった時代。駅前の雑踏や、夕暮れの風の匂いに、理由のわからない高揚と不安が同居していた。

そんな空気の中で、不意に胸の奥を掴んで離さなかった1曲がある。静かに始まり、気づけば感情の臨界点まで連れていく。その構造自体が、「恋が始まる瞬間」をなぞっているようだった。

aiko『初恋』(作詞・作曲:AIKO)――2001年2月21日発売

日常の隣にあったaikoという存在

aikoは、この時点ですでに“等身大の恋”を描くシンガーソングライターとして、確かなポジションを築いていた。1998年のメジャーデビュー以降、特別に背伸びをすることなく、日常の感情をそのまま音楽に落とし込むスタイルは、多くの共感を集めていた。

『初恋』は7枚目のシングルとしてリリースされたミディアムナンバーで、30万枚を超えるセールスを記録している。派手な仕掛けや極端なアレンジがあるわけではない。それでも、この曲は確実にリスナーの心に入り込み、長く聴き継がれていった。

その理由は、aikoが描く世界が“特別な物語”ではなく、誰もが一度は通った感情の通路だったからだろう。

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aiko-2003年撮影(C)SANKEI

抑えた始まりから、感情がほどけるまで

『初恋』の最大の特徴は、構成そのものが感情の推移をなぞっている点にある。Aメロでは、音数を抑えながら、慎重に言葉とメロディを積み重ねていく。そこには、気持ちを自覚する前の戸惑いや、踏み出す前の呼吸がある。

編曲を手がけた島田昌典は、この“ため”を極めて丁寧に扱っている。バンドサウンドは前に出すぎず、あくまでaikoの声とメロディを中心に据えた設計だ。その結果、聴き手は自然と、歌の内側に引き込まれていく

そしてサビ。ここで一気に温度が変わる。抑制されていた感情が解放され、旋律は大きく広がる。だが、決して大仰にはならない。あくまで“日常の延長線上”で、感情が爆発する。そのバランス感覚こそが、aikoの真骨頂だった。

ヒットの理由は「特別じゃない」こと

2001年当時、J-POPシーンは多様化が進み、個性やインパクトが強く求められていた時代でもある。そんな中で『初恋』は、強いメッセージや斬新なサウンドで勝負する曲ではなかった。

それでも30万枚以上を売り上げた背景には、「自分の感情をそのまま重ねられる」という圧倒的な共感性があった。初めて誰かを強く意識したときの落ち着かなさや、理由のない高揚。言葉にできなかった感覚を、音楽が先に言語化してくれた。その体験が、多くのリスナーにとって忘れがたいものになったのだ。

恋の入り口に、今もそっと置かれている曲

『初恋』は、時代を象徴する派手なヒット曲というより、人生のどこかに静かに置かれている存在だ。久しぶりに聴いたとき、不意に当時の空気や、自分の未熟さまで一緒に思い出してしまう。そんな力を持っている。

25年が経った今でも、この曲が色褪せないのは、恋の始まりがいつの時代も同じ温度を持っているからだろう。少し怖くて、少し浮かれていて、どうしようもなく前に進んでしまう。その瞬間を、aikoはこの1曲に閉じ込めた。

だから『初恋』は、懐かしさだけで聴かれる曲ではない。今まさに恋の入り口に立っている誰かにとっても、自然に寄り添う。そんな普遍性を持った楽曲なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。