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35年前、“正体不明ユニット”が放った“本気の悪ふざけ” 謎だらけなのに記憶に残るワケ

  • 2026.1.9

1991年の冬。都会ではまだバブルの余熱が残り、音楽シーンも派手さとスピードを競うように進んでいた。そんな時代に、あまりにも場違いな温度で、静かにリリースされた1曲があった。

冷たい風が吹きつける最果ての海。理由も語られず、ただ立ち尽くす男の姿。その情景だけが、妙にくっきりと浮かび上がる。

アンドレ中村とオホーツク・ボーイズ『せつなくて~オホーツクにたたずむ男~』(作詞:観音崎すみれ・作曲:観音寺潮二郎)――1991年2月21日発売

この曲は、当時すでに国民的バンドとなっていたDREAMS COME TRUEの中村正人による、ラジオ発の企画ユニットによるデビュー作だった。

ラジオから生まれた、謎だらけのユニット

「アンドレ中村とオホーツク・ボーイズ」は、ラジオ番組『中村正人のNORU SORU』内の企画から誕生したユニットだ。

リーダーでありボーカルを務めるのが、マッシュルームカットに真っ赤なスーツ姿という異様な風貌のアンドレ中村。名前からしてすでに現実と虚構の境界が曖昧だが、その正体を深掘りすること自体が、この企画の“野暮”でもあった。

メンバーはアンドレ中村を含めて5人編成。吉田美和風なメンバーもいるが、それぞれの詳細を掘り下げるのはやめておこう。この“よく分からなさ”こそが、このユニット最大の特徴だった。

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2005年、ロッテ「ガーナミルクチョコレート」新CM発表会見に登場した中村正人(C)SANKEI

ふざけているのに、音は本気

一見すると、完全にネタ。ラジオ企画、奇妙なビジュアル、意味深な設定。ところが、ひとたび音を聴くと、その印象は静かに裏切られる。

メロディは演歌的でもあり、歌謡曲的でもあるが、どこか洗練されている。過剰な起伏はなく、ひたすら寒々しい情景をなぞるように進んでいく構成

作曲を手がけた観音寺潮二郎名義の楽曲は、耳に残る派手さではなく、余韻で勝負するタイプだった。中村正人だからこその、音楽的な完成度が担保されているのは当然とも言える。

冗談の顔をしながら、中身は一切手を抜かない。このバランス感覚は、90年代初頭の彼だからこそ成立したものだった。

時代に逆行した、その存在感

1991年といえば、J-POPは明確に“都会”と“洗練”へ向かっていた時代だ。そんな中で、この曲が描いたのは、北海道・オホーツクという最果ての土地で、感情を抱え込んだまま動かない男の姿だった。

流行とも、ヒットチャートとも距離を置いたその世界観は、メインストリームに疲れ始めていた一部のリスナーの感覚に、確かに触れていた

だからこそこの曲は、大きなムーブメントにはならずとも、「なぜか覚えている曲」として、一部のコアなファンの記憶の片隅に残り続けている。

笑わせに来て、なぜか心に残る

アンドレ中村とオホーツク・ボーイズは、長く続くプロジェクトではなかった。

だが、この1曲が示したのは、音楽が必ずしも“正解”や“売れる形”を目指さなくてもいいという、ささやかな自由だった。

ラジオの悪ふざけから生まれ、真顔で歌われ、真冬の海に置き去りにされた男。その奇妙な存在は、35年経った今でも、ふとした拍子に思い出される。

流行から外れていたからこそ、時代に縛られなかった。だからこの曲は、今もなお、説明できない余韻だけを残して、静かに立ち尽くしている


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。