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35年前、真冬にリリースした“夏ポップ” 時代を逆走して40万ヒットしたワケ

  • 2026.1.6

1991年の冬。バブルの熱気がまだ街角に残り、音楽シーンでは新しさや刺激が競われていた時代。そんな空気の中で、まるで時間を逆再生するような1曲が、静かに広がっていった。流行の最先端でも、都会的な洗練でもない。そこにあったのは、少し色あせた海辺の風景と、胸の奥にしまい込んでいた“あの夏”の感触だった。

Mi-Ke『想い出の九十九里浜』(作詞:長戸大幸・作曲:織田哲郎)――1991年2月14日発売

真冬にリリースされたこの曲は、迷いなく“夏”を歌っていた。その季節外れの選択こそが、逆に多くの人の記憶を強く揺さぶったのかもしれない。

昭和の記憶をまとった、新人グループ

Mi-Keは、宇徳敬子、村上遥、渡辺真美の3人からなる女性ボーカルグループだ。『おどるポンポコリン』などで知られるB.B.クィーンズ内のコーラス隊「B.B.クィーンズシスターズ」として活動していたが、裏方的な存在から一転、表舞台に立つ形でデビューを果たした。

1991年当時、音楽シーンはデジタル化が進み、シャープで現代的なサウンドが主流になりつつあった。そんな中でMi-Keが提示したのは、1960年代のグループ・サウンズや昭和歌謡への明確なオマージュだった。

作詞は長戸大幸、作曲と編曲は織田哲郎。当時のヒットメーカーが、あえて“懐かしさ”を真正面から形にした。これは偶然のレトロブームではなく、過去のきらめきを、現在のポップスとして再構築する試みだった。

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1991年、「第33回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞したMi-Ke。左から宇徳敬子、村上遙、渡辺真美(C)SANKEI

記憶をくすぐる、緻密なポップ設計

この曲の魅力は、単に懐かしいメロディにとどまらない。歌詞の中には、複数のグループ・サウンズ楽曲を想起させる言葉やフレーズがさりげなく織り込まれ、ザ・ピーナッツ『恋のフーガ』を思わせる「パヤパヤ」など、様々なオマージュが見られる。

知っている人は気づき、気づいた瞬間に少し心がほどける。その距離感が、この曲を単なる引用集ではなく、独立したポップソングとして成立させている。

サウンドは軽快で、コーラスワークは端正。織田哲郎らしい骨格のはっきりしたメロディに、3人の声が溶け合うことで、素朴さと安定感が同時に生まれている。

派手な感情表現はないのに、なぜか胸が締めつけられる。

それは、この曲が特定の恋物語ではなく、誰もが持っている“夏の原風景”を呼び起こすからだ。

デビュー曲で紅白へ、ドラマの主題歌にも

『想い出の九十九里浜』は、最終的に40万枚を超えるセールスを記録。デビューシングルとしては異例のヒットとなり、この曲でMi-Keは「第42回NHK紅白歌合戦」に初出場を果たした。

本作は、TBS系ドラマ『ナースステーション』の主題歌にも起用され、幅広い世代の耳に届くことになる。テレビから流れるたびに、物語の内容とは別のところで、それぞれの“想い出”が静かに呼び起こされていった。

3人の声は個性を競い合うものではなく、あくまで溶け合うことを前提にしている。その均質さが、この楽曲の持つノスタルジックな世界観と見事に噛み合っていた。

時代を逆走したからこそ、残ったもの

1991年という時代に、あえて1960年代の空気をまとったこの曲は、最先端とは真逆の場所に立っていた。だが、その“逆走”こそが、多くの人にとって新鮮に映った。

流行を追いかけないからこそ、流行が過ぎても色あせない。『想い出の九十九里浜』は、そんな特性を自然に備えた楽曲だった。

季節外れの冬に届けられた、夏の幻影。それは35年経った今も、ふとした瞬間に、海の匂いと一緒に蘇ってくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。