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デビュー前の人気シンガーが放った“アイドルポップ” 「時代の音」として印象づけたワケ

  • 2026.1.6

1986年。テレビから流れる音楽、雑誌の紙面、原宿や渋谷の風景。どれもが軽やかで、スピード感があり、明るさを競い合っていた。深く考える前に、まず走り出してしまう。そんな空気が確かにあった。その勢いを、そのままポップソングに落とし込んだような1曲が、この年にリリースされている。

松本典子『虹色スキャンダル』(作詞:湯川れい子・作曲:久保田利伸)――1986年2月26日発売

王道アイドルの真ん中で鳴った、全開のポップネス

『虹色スキャンダル』は、松本典子にとって4枚目のシングル。当時の彼女は、正統派アイドルとしてのイメージをしっかりと確立しつつあった時期で、この曲もその路線を真正面から肯定するような作品だった。

楽曲全体を貫くのは、迷いのない明るさとテンポの良さ。サビへ向かって一直線に駆け抜けていく構成は、聴き手に考える隙を与えない。その潔さが、この曲を「時代の音」として強く印象づけている

作詞を手がけた湯川れい子の言葉も、重さや内省を背負わせることなく、感情をポンポンと前へ転がしていくタイプのものだ。立ち止まらず、振り返らず、今の気持ちをそのまま口にする。そんなスピード感が、80年代半ばのアイドルポップらしさを鮮やかに体現している。

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1985年、「第16回日本歌謡大賞」で新人賞を受賞した松本典子(C)SANKEI

久保田利伸が注ぎ込んだ、弾むメロディの推進力

作曲は、リリース時にまだメジャー・デビュー前だった久保田利伸。とはいえ、この『虹色スキャンダル』には、後年の彼を知る耳で聴いても納得できる、明確な才能の輪郭がある。

メロディは終始軽快で、リズムにしっかりとした跳ねがある。彼ならではなグルーヴを意識した作りはすでに感じ取れるポイントだ。派手すぎず、しかし単調にもならない。そのバランスが、アイドルソングとしての親しみやすさと、音楽的な新しさを両立させている。

編曲を担当した中村哲のアレンジも、楽曲の明るさを最大限に引き出す方向で機能している。音数は多すぎず、リズムとメロディの輪郭をはっきりと立たせることで、楽曲全体にスピードと抜けの良さを与えている。

まっすぐで、少し忙しい歌声

松本典子のボーカルは、この曲において非常に素直だ。感情を作り込むのではなく、メロディに身を任せて、そのまま前へ出ていく。その姿勢が、楽曲のポップネスと見事に噛み合っている。

落ち着きよりも、弾む気持ち。余韻よりも、瞬間のきらめき。

少し感情が忙しいくらいのテンションが、この曲にはちょうどいい。それは、1986年という時代そのもののスピード感でもあった。

カラフルさこそが時代性だった

『虹色スキャンダル』は、深読みを要求するタイプの楽曲ではない。だが、その軽やかさと明るさこそが、この曲の価値だ。

アイドルポップが最もポップであることを許されていた時代。楽しさや高揚感を、遠慮なく前面に出せた最後の空気。その真ん中で、この曲は迷いなく鳴っていた。

色とりどりで、勢いがあって、少し落ち着きがない。だからこそ、『虹色スキャンダル』は今聴いても1986年の風景を一瞬で呼び起こす。あの頃の街の明るさを、そのまま閉じ込めた一曲として。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。