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20年前、大ヒット緊迫ドラマを完結させた“余韻” 救いも希望も歌わない“緊張の主題歌”

  • 2026.1.6

2006年の冬。TBS系ドラマ『白夜行』で、言葉を失ったままエンドロールを見つめていた人は、少なくなかったはずだ。派手な展開も、大げさな音楽もない。それなのに、胸の奥だけが重く、静かに締めつけられていく。あの感覚は、ドラマの力だけではなく、最後に流れた一曲が残した余韻だったのかもしれない。

柴咲コウ『影』(作詞:柴咲コウ・作曲:渡辺未来)――2006年2月15日発売

ドラマの主題歌として世に放たれたこの楽曲は、視聴者の感情を過剰に導くことなく、物語の“影”だけをそっと残していった。

光を描かず、影だけを置いていくという選択

『影』は、柴咲コウにとって9枚目のシングル。主題歌となったTBS系ドラマ『白夜行』は、東野圭吾による同名の推理小説を原作に、山田孝之と綾瀬はるか主演で連続ドラマ化した作品だ。ドラマは放送当時から高い注目を集め、その重く張りつめた空気感が話題となっていた。

この主題歌で特筆すべきなのは、柴咲コウ自身が原作を読み込み、その世界観に触れた上で詞を書き上げているという点だ。物語を外側からなぞるのではなく、内側に入り込み、言葉を選び取っていく。その姿勢が、この曲の温度を決定づけている。

ラブソングとしての輪郭は曖昧で、救いも希望も前面には出てこない。あるのは、感情が言葉になる直前の、あの張りつめた沈黙に近い感触だけだ。

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2012年、神奈川県・藤沢市で初のフリーライブをおこなった柴咲コウ(C)SANKEI

音数を削ぎ落とした先に残る、緊張の持続

編曲を手がけたのは前嶋康明。サウンドは一定の速度で静かに進行していくが、決して「穏やか」ではない。何も起きていないようで、ずっと緊張が解けない。その感覚が、ドラマ『白夜行』の世界観と深く共鳴していた。

柴咲コウのボーカルもまた、感情を爆発させることを選ばない。叫ばず、語りすぎず、ただ一定の距離感を保ったまま旋律に身を委ねる。その抑制があるからこそ、聴き手は感情を押しつけられず、自分自身の記憶や感覚と向き合う余白を与えられる。

ドラマの一部として完成された主題歌

『影』は、単なるタイアップソングではない。ドラマのために“用意された曲”というよりも、物語の一部として存在していた主題歌だった。

毎話のラスト、すべてが終わったあとに流れるこの曲は、視聴者の感情を整理する役割を果たさない。むしろ、整理させないまま夜に放り出す。その不親切さこそが、『白夜行』という作品の本質に近かった。

派手なフレーズや覚えやすいサビがなくても、この曲が記憶に残り続けているのは、ドラマの世界から一歩も外に出なかったからだろう。主題歌でありながら、自己主張をしない。その姿勢が、かえって強い印象を残した。

夜の終わりに、今も残る静かな影

放送から20年が経った今、『影』を聴き返すと、当時のドラマの場面だけでなく、自分自身の記憶まで一緒に立ち上がってくることがある。あの頃の夜の空気、テレビを消したあとの静けさ、言葉にできなかった感情。

この曲は、答えを与えない。だからこそ、今も消えずに残っている。ドラマが終わっても、物語が完結しても、影だけは静かに心の中に留まり続け、そしてその余韻は、今も確かに続いている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。