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30年前、夜の空気がほどけていく“静かなバラード” 派手さを捨てて30万枚を超えた“呼吸のような1曲”

  • 2026.1.5

「1996年の街にはどんな沈黙が流れていた?」

冬の終わりの冷たい空気と、どこか慎重になっていく人の足音。派手なムードが前面に出る時代ではなく、言葉も感情も、少しだけ内側へ引き戻されていく。そんな感覚を、過剰な演出なしで音にしてみせた曲がある。

CHAGE&ASKA『river』(作詞・作曲:飛鳥涼)――1996年2月19日発売

ピアノを中心に据えたバラードが、夜の隙間へ静かに入り込み、気づけば心の奥で鳴り続ける。『river』は、そんなタイプの楽曲だった。

立ち止まらずに進むための“38枚目”

『river』はCHAGE&ASKAの38枚目のシングル。TBS系ドラマ『リスキーゲーム』主題歌として世に出て、30万枚を超えるセールスを記録した。数字だけで語るなら、派手な爆発力というより“確かな浸透力”が印象に残るヒットだ。

この曲の重要さは、派手な仕掛けで場を揺らすのではなく、聴く側の感情の温度に合わせて寄り添う設計にある。誰かを説得するための強い言葉ではなく、沈黙の隣に置ける音として成立している。だからこそ、テレビから流れてきても、部屋でひとり聴いていても、同じ距離感で胸に残る。

ピアノが残した、余白の輪郭

ピアノを中心に組み立てられたサウンドは、音数で圧倒する方向ではない。編曲を担った重実徹は、響きを厚くしすぎず、旋律の流れとボーカルの輪郭が自然に立つ配置を選んでいる。バラードでありがちな“泣かせ”の装飾よりも、淡い陰影を積み上げていく感触が前に出る。

ASKAの歌声も同様だ。必要以上に張り上げないことで、言葉と音の間に余白が残る。その余白が、聴き手にとっての記憶や時間を差し込むスペースになる。感情を押しつけないのに、こちらの気持ちだけがほどけていく。『river』の魅力は、まさにそこにある。

曲全体が一方向へ流れていくのも大きい。ドラマティックな転調や大きな山場で勝負するのではなく、同じ水位を保ちながら、少しずつ景色を変えていく。タイトルが示す通り、流れ続けること自体が曲の説得力になっている。

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1993年、セイブ・ザ・チルドレン チャリティープロジェクト発足に出席したCHAGE&ASKA(C)SANKEI

ドラマの余韻に溶けた“静けさの強度”

TBS系ドラマ『リスキーゲーム』の主題歌としての配置も、この曲の性格をよく映していた。物語が緊張をはらんでいても、結末がすっきりと解決に向かわなくても、音楽だけは過剰に煽らない。その抑制が、むしろ余韻を深くする。

テレビの前で受け取った人にとっても、この曲は“主題歌らしく”前に出るというより、場面の後ろ側に残るタイプだったはずだ。終わったはずのシーンが、エンドロールの外側でも続いていくような感覚。その延長線上に『river』が流れることで、作品世界の温度が保たれる。静けさが弱さではなく、強度として働く。そういう主題歌は、実は多くない。

流れの途中で、また会える曲

『river』は、熱狂の中心に立つより、少し離れた場所で光る。気持ちが騒がしい日ほど、この静けさが効いてくる。立ち止まりたくなる瞬間に、無理に励ましたり結論を出したりせず、ただ流れ続けてくれる。

何かを言い切らないまま、それでも前へ進める。その感覚を、ピアノと声の距離感だけで成立させた30年前のバラード。『river』は今も、夜の空気に溶けながら、同じ速度で流れ続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。