「父さん、会社クビになった(笑)」家族LINEでまさかの報告。続く一文で母がブチギレ…【短編小説】

日曜日の夕食後、「大事な調べ物がある」と言って二階の書斎にこもった父。

私と母がテレビを見ていると、テーブルの上のスマホが同時に鳴りました。「家族グループLINE」の通知です。

同じ家にいるのに何だろう？と不思議に思いながら画面を開くと、父からのメッセージが表示されました。

「おい、父さん会社クビになったわ(笑)」

私は目を疑いました。リストラなのか、何かやらかしたのか。人生の一大事を、しかも二階からLINEで、あまつさえ「(笑)」付きで報告してくる神経が理解できません。

隣を見ると、母もスマホを凝視して固まっています。私は慌てて返信しました。

「は？何言ってるの？お母さんも見てるよ、これ」

冗談だとしても笑えないし、事実ならもっと真剣に話すべきです。しかし、既読はすぐにつき、父からはさらにふざけた返信が返ってきました。

「だから、これからは母さんにバリバリ働いてもらって、俺は趣味に生きるわ。よろしく！」

「あ、ついでにコーヒー持ってきてくれ。これからは俺が主夫(家事しないけど)だな(笑)」

私の忠告など聞く耳持たず、完全に母に寄生する気満々です。怒りで頭が真っ白になりかけたその時、隣で母がすっくと立ち上がりました。

「お母さん？」

母は無言のまま、キッチンのコーヒーメーカーではなく、リビングのドアへと向かいます。ちょうどその時、スマホを見た父が「おーい、コーヒーまだかー？」と、悪びれる様子もなく階段を降りてきました。

リビングの入り口で、ヘラヘラと笑う父と、能面のような表情の母が対峙します。

「おう、LINE見ただろ？俺はこれから自由だ。お前が稼いで俺を……」

父が言い終わる前に、母の冷徹な声が響きました。

「ええ、自由になればいいわ。ただし、一人でね」

「あ？」

「会社をクビになった上に、妻に寄生して趣味に生きる？ふざけないで。私はあなたの母親でも家政婦でもないの」

母はポケットから、いつか使うために持っていたであろう離婚届を取り出し、父の胸に叩きつけました。

「私も『妻』という仕事を今日で退職させていただきます。退職金代わりの財産分与、きっちり請求するから覚悟しておいて」

父の顔から、みるみる血の気が引いていきました。「(笑)」なんて打っていた数分前の余裕は消え失せ、震える声で何か言おうとしていましたが、母はもう見向きもしませんでした。

現在、母と私は二人で平和に暮らしています。あの夜、父が手に入れたのは「働かなくていい自由」ではなく、「家族も職も失った孤独な時間」だけでした。

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