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孤独で自尊心が低い人ほど投げ銭をしたくなる――その悲しい理由

  • 2025.12.3
孤独で自尊心が低い人ほど投げ銭をしたくなる――その悲しい理由
孤独で自尊心が低い人ほど投げ銭をしたくなる――その悲しい理由 / Credit:Canva

イギリスのスタフォードシャー大学(SU)とキプロス国際大学(CIU)で行われた研究によって、ライブ配信でお気に入りの配信者に「投げ銭」を「これからも送りたい」と答える人ほど、社会的に孤独であることが示されました。

また孤独に加えて自尊心の低さが加わることで「投げ銭したい」という気持ちがさらにブーストされる傾向にあることも見えてきました。

この結果は、投げ銭行動は人間の孤独感や自尊心の低さに大きく関連している可能性を示しています。

ライブ配信は近年急成長する巨大市場ですが、その収益を支える視聴者の行動原理に「孤独感」や「自尊心の低さ」という個人的な感情が関与している可能性が示された点で注目に値する結果だといえます。

孤独な人ほど、「さみしさ」を紛らわすためにお金を差し出してしまうのなら、投げ銭はある意味で「さみしさ税」あるいは「弱者税」と言えるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年5月5日に『Management Decision』にて発表されました。

目次

  • 投げ銭ブームの影で見逃されていた視聴者の心
  • 投げ銭は「弱者税」か? ライブ配信に潜む孤独と自尊心の低さ

投げ銭ブームの影で見逃されていた視聴者の心

投げ銭ブームの影で見逃されていた視聴者の心
投げ銭ブームの影で見逃されていた視聴者の心 / Credit:Canva

SNSや動画プラットフォームのライブ配信では、視聴者が配信者にお金を送る「投げ銭」がすっかり定着しています。

YouTubeのスーパーチャットやTwitchの「Cheer(ビッツ)」、TikTokのギフトなど、画面越しに応援の気持ちを届ける手段はさまざまです。

多くの人は少なくとも表向きには純粋に配信者を支援したり、自分のメッセージを読んでもらったりするために投げ銭をします。

そんな光景を見ていると多くの人は「投げ銭する人=お金に余裕のある熱心なファン」だと、なんとなく思い込んでしまいがちです。

しかし冷静に考えてみるとこれは奇妙でもあります。

リアルマネーを払ってバーチャルな贈り物をするのはグッズ購入やイベント参加とは違い、物質的な見返りがありません。

それでも投げ銭が広まっている理由について、これまで様々な仮説が語られてきました。

たとえば配信者との一方通行な疑似友情の欲求や、配信そのものに熱中する没入感(フロー)などです。

ところが、肝心な点として「どんな人が投げ銭をしやすいのか?」などの心の特徴がどう関わるのかという点については十分に検証されていません。

そこで今回研究者たちは、投げ銭をしやすい人の性質に切り込む調査を行いました。

投げ銭は「弱者税」か? ライブ配信に潜む孤独と自尊心の低さ

投げ銭は「さみしさ税」か? ライブ配信に潜む孤独と自尊心の低さ
投げ銭は「さみしさ税」か? ライブ配信に潜む孤独と自尊心の低さ / Credit:Canva

どんな性質を持つ人が投げ銭をしやすいのか?

研究者たちは答えを得るため、アメリカ在住のライブ配信視聴者を対象としたオンライン調査を実施しました。

被験者の条件は「直近1か月以内にライブ配信を視聴し、過去6か月以内に投げ銭をした経験があること」です。

これらの条件を満たす人々327名について、孤独感や自尊感情、自信(自分の能力に対する信頼感)、そして今後も投げ銭したい意向を、それぞれ5段階評価で答えてもらいました。

結果、まず、孤独感が高い人ほど投げ銭したい意図が強いという関係が有意に見られました。

統計モデルの中で、孤独感から投げ銭意図への矢印はかなり太く、「さみしさが強いと、推しにお金を投げたい気持ちも強まりやすい傾向がある」というパターンが確認されたことになります。

次に、孤独感と投げ銭意図のあいだに自尊感情がどう入り込むかを調べると、「孤独感が高いほど自尊感情が下がり、その結果として投げ銭意図に影響する」という間接ルートも成り立つことが示されました。

つまり、孤独感が強い人が自尊心まで低くなるとさらに「投げ銭」をしたい気持ちが強まるのです。

研究チームは、孤独な人は自分の存在意義や価値を見失いがちで自尊心が下がってしまい、そのためライブ配信で投げ銭をすることで承認やつながりを得ようとする可能性があると考察しています。

また、人が死の恐怖に直面したときにどのように心の安定を保つかを説明する理論(テロ・マネジメント理論)の観点から言えば、人は孤独や死への不安を感じるとき、自分は価値ある存在だと思える何か(文化的な繋がりや他者からの承認)にすがろうとします。

その一つの表れがデジタル時代の投げ銭行動であり、たとえオンライン上でも「誰かの役に立った」「自分もコミュニティの一員だ」という感覚を買い取っているとたとえられるかもしれません。

配信者へのギフトという形で、自分の存在価値を再確認しているとも言えるかもしれません。

ここから重要なのは、ここから先の解釈です。

もし「孤独で自尊感情が低い人ほど投げ銭しやすい」傾向があるなら、ライブ配信プラットフォームや配信者は、知らず知らずのうちに一番さみしい人たちの財布に依存してしまう危険があります。

論文の経営指南的な部分には、「社会的に孤立したユーザーを優先的にターゲットにすることで、収益を高められる可能性がある」とする記述もあります。

以下は経営指南の要約
第一に、本研究の知見は、バーチャルギフトによる寄付収入を最大化したい運営や配信者にとって有用な指針となります。具体的には、収益を高めることを目指す運営や配信者は、社会的に孤立しているユーザーを優先的なターゲットとすべきだと考えられます。というのも、本研究では、そうしたユーザーはバーチャルギフトを寄付する可能性が有意に高いことが示されたからです。企業は、この潜在力の高いユーザー層に焦点を当て、その人たち特有のニーズに合わせたターゲットキャンペーンを展開することで、収益を戦略的に高めることができます。たとえば高度な感情分析ツールを活用し、交流頻度が少ない、投稿内容がネガティブである、ソーシャルなつながりが少ない、といった社会的孤立のサインを示すユーザーを特定することができます。そうして特定されたユーザーに対しては、限定バーチャルギフトの提供や寄付に対する特別な称賛など、その人たちを明確に対象としたパーソナライズされた訴求キャンペーンを実施することが考えられます。
 
第二に、自尊心が低い人ほど、ソーシャルメディア上でバーチャルギフトの寄付に参加しやすいことが示唆されます。なぜなら、バーチャルギフトの寄付は、自分の自己価値感を高めたり、社会的なステータスを向上させたりする効果を持ちうるからです。バーチャルギフトを贈ることによって、「自分は大切にされている」「感謝されている」「人とつながっている」と感じられ、それが自尊心の向上に寄与します。したがって、組織はこの知見を活かし、自尊心の低いユーザーを想定したソーシャルメディア・マーケティングキャンペーンを設計することができます。たとえば、バーチャルギフトを寄付することで「自分自身や自分の貢献について良い気持ちになれる」ことを前面に出したメッセージを作り、参加を促すことが考えられます。こうした取り組みは、個人が自尊心を高め、社会的なつながりを強める助けとなるだけでなく、寄付が増えることで配信者やプラットフォームの収益向上にもつながります。
 
第三に、本研究では「自信」が社会的孤立とバーチャルギフト寄付意図の関係を直接には調整しない一方で、自尊心を介して間接的に影響することが示されました。この結果は、単に自信を高めるよりも、自尊心を高めることに注力するほうが、社会的に孤立した個人のバーチャルギフト寄付意図を高めるうえで効果的である可能性を示唆します。マネジメント上の含意として、バーチャルギフト寄付に依存している企業は、マーケティングやアウトリーチ活動において、自尊心の向上に焦点を当てた戦略を取り入れることで恩恵を受けることができるでしょう。たとえば、バーチャルギフトの寄付が自尊心に与えるポジティブな影響を強調するメッセージキャンペーンを展開し、社会的に孤立した個人に届くようターゲット広告を用いることが考えられます。さらに、メンタルクリニックやコミュニティセンターなど、自尊心を高めるサービスや資源を提供する組織と連携し、その取り組みをマーケティング活動の一部として活用することも有効でしょう。

これらの内容は企業戦略としては正論ですが、メンタルヘルスの部分では問題を加速させる要因にもなりえます。

ただ投げ銭を一方的にネガディブに考えるのも正しくはないでしょう。

孤独で自尊感情が揺らいでいる人にとって、配信者からの「ありがとう」「名前を呼ばれること」は、自分の存在を認めてもらえる貴重な瞬間になりえます。

確かに、投げ銭は寂しさや自尊心の低い人からお金を吸い上げていく「さびしさ税」あるいは「弱者税」のような見方も可能です。

しかし見方を変えれば「心の防衛本能が選んだ支え方」の一つでもあると言えるかもしれません。

元論文

Isolation marketing: social isolation and virtual gift donation intention
https://doi.org/10.1108/MD-07-2024-1685

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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