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「覚悟して観て」“直視しがたいシーン”に騒然…「鳥肌立った」名俳優の“覚悟が滲む”傑作映画

  • 2025.12.25

映画の中には、観終わった後もしばらく席を立てなくなるほど、心に深い爪痕を残す作品があります。今回は、そんな中から"絶賛の声が相次ぐ名作"を5本セレクトしました。

本記事ではその第4弾として、映画『天上の花』(太秦)をご紹介します。美しい自然に囲まれた雪国で、一人の詩人の純愛が狂気へと変わっていく様を描いた本作。妻子を捨ててまで貫いた詩人の純愛が、なぜ狂気へと変わってしまったのか――。雪深い越前の地で繰り広げられる、壮絶な愛の行方に迫ります。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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映画の公開記念舞台あいさつに出席した主演の東出昌大(C)SANKEI
  • 作品名(配給):映画『天上の花』(太秦)
  • 公開日:2022年12月9日
  • 出演:東出昌大 (三好達治 役)

昭和初期、詩人・三好達治(東出昌大)は、師と仰ぐ萩原朔太郎(吹越満)の家に同居する美貌の末妹・慶子(入山法子)と運命的に出会います。一目で恋に落ちた彼は結婚を申し込みますが、貧しい書生であることを理由に慶子の母から拒絶され、失意のまま別の女性と見合い結婚をしました。

時が過ぎ、日本が戦争への道をひた走るころ、達治は戦争を賛美する詩で国民的詩人へと上り詰めますが、そのことで朔太郎との関係は悪化。やがて朔太郎は病死し、慶子も夫と死別します。

昭和19年、朔太郎の三回忌で慶子と再会した達治は、16年4ヶ月もの間胸に秘めていた想いを告白。妻子と離縁し、慶子を自らの元へ迎えるという衝撃の決断を下します。

戦火を逃れ、越前三国でひっそりと始めた新生活。しかし、雪深い冬の過酷な生活の中で、達治の潔癖な愛は奔放な慶子への嫉妬と憎悪へと変貌。一途な愛が凄惨な暴力へと反転し、二人の愛憎劇は誰も予想しなかった結末を迎えるのでした――。

「日本映画界の重鎮×異色のキャスト」が描く野心作

本作『天上の花』は、単なる文芸作品の映画化にとどまらない、制作陣の並々ならぬ執念が詰まった作品です。

原作は、"日本近代詩の父"と称される萩原朔太郎の娘・萩原葉子が、叔母である慶子と達治の関係を綴った小説『天上の花―三好達治抄―』。この当事者に近い視点で描かれた原作を、五藤さや香さんと、映画『火口のふたり』や『共喰い』などで知られる日本映画界の重鎮・荒井晴彦さんが脚本化しました。メガホンを取ったのは、4時間超の大作『いぬむこいり』で映画界に衝撃を与えた片嶋一貴監督です。

キャスト陣も、実力派と異色の才能が集結しました。 主人公の三好達治を演じるのは東出昌大さん。その愛と憎しみを一身に受けるヒロイン・慶子役には入山法子さん。萩原朔太郎役を吹越満さんが演じ、さらに詩人・佐藤春夫役には人気漫画家の浦沢直樹さんが起用されるなど、意外性のある配役も話題を呼びました。

なお、本作はR指定(R15+、R18+)ではありませんが、劇中に激しい暴力描写などが含まれるため「PG12」(12歳未満の年少者の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要)に指定されています。

「直視できない…」壮絶なDVと東出昌大の覚悟と怪演

本作『天上の花』における最大の見どころは、東出昌大さんによる鬼気迫る演技、そしてその背景にある壮絶なドラマです。

達治が抱いた愛は、いわゆる純愛とは一線を画すものでした。彼は師の妹である慶子に16年間も思いを寄せ、最終的には妻子を捨ててまで彼女との生活を選びます。すべてを犠牲にして求めた“理想のミューズ”。しかし、その過度な期待と執着が、彼を怪物へと変える引き金となってしまいます…。

劇中で描かれる慶子への暴力は、直視するのが辛いほど凄絶です。しかし、そこには単なる暴力以上の意味が込められています。達治にとって、現実における奔放な慶子の振る舞いは、長年夢見てきた“理想”への裏切りでした。その失望が暴力という形で噴出し、結果として自らの芸術世界を傷つける“自傷行為”として表現されているのです。

東出さんはこの難役に全身全霊で挑みました。知的な詩人の顔から、嫉妬に狂う修羅の顔までを見事に演じ分け、片嶋監督から「三船敏郎になりうる人」とまで絶賛されています。

特に語り草となっているのが、クライマックスのトンネルシーンです。この場面はテストなしの「一発OK」で撮影されました。相手役の入山法子さんが憔悴しきるほどの気迫と熱量が凝縮されたこのシーンは、まさに映画史に残る名演と言えるでしょう。

あまりに過激なDV描写に対し、一部では「覚悟して観て」「凄まじかった」「直視できない…」「クズすぎる」「怖くて涙が出た…」といった声も上がり、「心に刺さる映画」「鳥肌立った」「傑作」と、その熱量を絶賛する声が相次いでいます。

純愛が生んだ“怪物”

映画『天上の花』は、美しい映像と残酷な人間の本性を対比させた、稀有な名作です。

物語の背景には、満州事変から第二次世界大戦終結までの不穏な時代が流れています。純粋な詩人が時代の要請に応じて“戦争詩”を書き、狂気を増幅させていく姿は、「戦争がいかに人を狂わせるか」という普遍的な問いを突きつけます。

妻子を捨て、すべてを懸けた愛の果てに待っていた地獄。安易な共感を拒絶し、痛みを伴う問いを投げかける本作は、まさに“絶賛の声が相次ぐ名作”と呼ぶにふさわしい一作です。


※記事は執筆時点の情報です