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だから「真面目な日本人」ほど潰れる…休みの日に「メールを受け取ったドイツ人」が死守する"絶対ルール"

  • 2025.11.28

職場で心身の不調を訴える人が後を絶たない。その原因はどこにあるのか。ドイツ出身のコラムニスト、サンドラ・ヘフェリンさんは「ドイツ人の仕事や休暇に対する考え方は、日本人と異なる。例えば、フルタイムで働く40歳の男性は、スケジュールの立て方や休み中のメールへの向き合い方などに特徴があった」という――。(第3回)

※本稿は、サンドラ・ヘフェリン『有休取得率100%なのに平均年収が日本の1.7倍! ドイツ人の戦略的休み方』(大和出版)の一部を再編集したものです。

ドイツ国旗
※写真はイメージです
子育てに積極的な“今どきのドイツ人男性(40)”

世の中には仕事のしすぎで、心身ともにバランスを崩し、うつになる人がいます。さまざまな理由があると思いますが、大きな理由のひとつには「休まなかったこと」にあるのではないでしょうか。

本稿では「心身ともにギリギリの状態でやった仕事と、リフレッシュ後にやった仕事では、やっぱり仕事のスピードも出来も違う」と話すドイツ人男性に、詳しく「仕事と休暇」「休暇と人生」について教えていただきました。

ベンさん(Benさん、40歳、男性)、100%ホームオフィス。フルタイム勤務でシステムを設計する仕事に従事。

ベンさんは「今どきのドイツ人男性」です。「今どきのドイツ人男性」というのは、昔のドイツ人男性にありがちだった「ジェンダーにまつわる古い考え方」とは無縁で、子育てに積極的な男性のことです。

ベンさんには14歳の娘がいますが、娘の母親である元妻とは11年前、娘が3歳のときに離婚しました。娘が生まれた当時は「夫婦」だったわけですが、娘が生まれたあと、ジャーナリストだった元妻が仕事をし、1年半の間、ベンさんが家にいて、専業主夫として娘の面倒を見ていました。その後、娘が3歳のときに夫婦は離婚しました。

離婚しても“子育ては2人で”

ベンさん曰く「自分が主夫だったときに、妻の仕事の愚痴を聞くのが精神的に耐えられなかった。今思えば自分は反省しきり」とのこと。この元夫婦はまさに「今どきのドイツの親」なのです。

離婚後も共同親権である彼らは、「完全にフィフティ・フィフティ」で育児をしています。その「内訳」はこうです。

「金曜日から木曜日まで、つまり1週間、娘は父親の家」にいます。そして金曜日に学校が終わると、今度は「金曜日から木曜日は母親の家」にいます。つまり娘は、「1週間ごとに、父親の家と母親の家をローテーションしている」のです。

そう、ドイツでは「カップルとしてやっていけない」と判断し、互いに別の道を歩んでも、「子育てに関してはなるべく双方で一緒にやっていく」というスタイルが好ましいとされています。

ベンさんは2004年にギムナジウム(編集部注:大学などへの進学を目指す教育機関のこと)を卒業、その後アウグスブルグの大学に入るまで、「1年間は、たまに企業のインターンシップをやるぐらいで、何もしなかった」と言います。今の会社では2014年から働き、User Experience Designという、商品やサービスを利用する際にユーザーにとって最適な体験を提供できるように設計する仕事をしています。

在宅勤務は“孤独”である

ベンさんには平日の夜、ミュンヘンの中心部でインタビューをしました。聞いてみると、コロナ禍以降、ベンさんは100%ホームオフィスで、「オフィスに行くのは1年に20回ぐらい」なのだとか。この会社はコロナ禍以降、全員がホームオフィスです。同僚にはドイツの地方やヨーロッパのほかの国からホームオフィスで働いている人もいます。

面白かったのは、ベンさんがふとしたときに「オフィスに出社して働いていたころが懐かしい」と口にしたことです。彼と同僚たちがオフィスに出勤していたのはコロナ禍の前になるので、かれこれ5年以上も前のことになるからです。

「ホームオフィスのマイナス点は……?」とベンさんに聞いてみると、「やっぱり孤独なことかな」と言います。

「みんなとオンライン会議をしたりするでしょ。それで、会議が終わると、『あ、また独りぼっちだ……』って思うことはある。だから本来は『混ぜる』のがいいと思うんだよね。個人的には週に2日ぐらいは出社してもいいと思っているよ」。

ビジネスマンがクライアントとオンライン会議
※写真はイメージです

でもその「週に2日出社」はスペース的に難しいそうです。というのもコロナ禍になる前、ベンさんの勤める会社はミュンヘンの中心部の「最も家賃が高い」と言われるおしゃれなエリアに大きなオフィスがあったのですが、社員にホームオフィスをさせることによって、そのオフィスはもう必要ではなくなったからです。

ポジティブな言い方をすれば「『ホームオフィスにすることによって、従業員はハッピーで満足、そして会社側は経費削減を狙える』という一石二鳥」なわけです。

「オンラインでの雑談」が大事にされている

ベンさんはフルタイム勤務。勤務時間は9時から18時の週40時間の勤務です(1時間はお昼休み)。ベンさんの話を聞いていて面白かったのは、彼の職場では「オンラインでの雑談が大事にされている」ということです。

「朝9時にホームオフィスがスタートするけど、ほかの人もオンラインのときは15分ぐらい、みんなと雑談をするんだ。休暇などのプライベートな話、そして仕事の話。オンラインというと、どうしても『業務上、必要なことしかしゃべってはいけない』と考えている人がいるけど、我が社にそれは当てはまらない。

そうやって普段からコミュニケーションを取ることで、いざプロジェクトがスタートすると、オンラインでの意見交換もスムーズにいく。オンラインで雑談をしたことにあるか否かでだいぶ『言いやすさ』も変わってくるよ」と大事なことを教えてもらった気がします。

さらにベンさんは、仕事に集中するために「1日の計画」も大事にしています。ベンさんは電話やオンラインでの会話が多い仕事だと言います。

「1人で集中する時間」に2割を割き、同僚にも周知

「仕事の80%は顧客と話したり同僚と連絡を取ったりする『チームワーク』。だから僕は残りの20%の『フォーカスタイム』(※大事なタスクを誰にも邪魔されることなく完了するために確保する専用の時間枠)を死守している。

会社の同僚にわかるように、会社のオンラインシステムにもその旨表示が出るようにして、フォーカスタイムに集中してタスクをやってる。僕は朝にみんなとざっと話して、本当に大事なメールや連絡作業をしたあと、2時間半ぐらいフォーカスタイムにしている。やっぱり午前中の方が集中できるから」とのこと。

ベンさんの「宣伝用のウエブサイトの仕組みを作る」という仕事には顧客や同僚との情報交換も必要ですが、やはり毎日のように「1人で集中する時間」を設けないと仕事は進まないのだとか。

【図表1】ベンさんの1日
『有休取得率100%なのに平均年収が日本の1.7倍! ドイツ人の戦略的休み方』より

そんなベンさんに「お昼休みの過ごし方」を聞いてみると……、「お昼休みは1時間だけど、会社は細かいことは言わないね。実は僕は『お昼休み』は特に取っていないんだ。仕事の合間にサッとサンドイッチを頬張るぐらい」とのこと。

「有休は取るか取らないかではなく、全部取る」

ベンさんの週末の過ごし方はというと、「週末の土日に家事をしたくないから、金曜日の夜はホームオフィスが終わってから家事をする。

そして、土曜日はソファー・デーだよ。つまりはソファーでゴロゴロするというわけ。そして日曜日もソファー・デーなんだ。でも日曜日は土曜日よりも自分の中のエネルギーが戻ってきているから、天気がよければ隣に住んでいる人と一緒にビアガーデンに行ったりすることもあるし、ちょっと自転車に乗ることも。日曜日に1人でカフェに行って、新聞を読んでいるときが僕は一番幸せかな」とのことでした。

基本的に週末は仕事をせず、ひたすらボーっとしてエネルギーチャージをするのだとか。

ベンさんの年間の有休も30日です。2014年に入社後は27日だった有休が、その後1年ごとに1日ずつ増え、30日に達したところでストップし、今に至るようです。ベンさんはこう言います。

「有休は全部取るし、会社からも定期的に『有休を取るように』と言われているよ」。

ここでもまた「有休は、取るか取らないか」ではなく、「有休は全部取る」という前提と共通認識があるのでした。

“年2回の自転車旅”があるから仕事に集中できる

ベンさんは休暇を娘と一緒に過ごします。毎年、春のイースターに1週間、そして夏に2週間。どちらの休暇も娘と一緒に「自転車に乗りっぱなし」です。そう、ベンさんは自転車に乗ることが大好き。したがって休暇中の移動は、もっぱら自転車なのです。

「僕にとって、『旅』とは新鮮な空気の中で自転車をこいで体を動かすことだね。それから現地で美味しいものを食べて、地元の人としゃべって、夜はホテルで娘とゆっくり過ごすのが『充実した旅』。だから自転車の旅に備えて、普段から毎朝のインドアサイクリングは習慣づけているんだ。

僕はこの自転車旅行から戻ると、1カ月間は仕事でバリバリ集中できる。なんといっても毎日体を動かしているし、日光をたくさん浴びている。普段は訪れない場所を訪れて、いろんな景色や風景を見ることで、気分転換になっているし、自分がリラックスしているのがわかる。『ラクだから』とずっとダラダラするのはダメだね。Man muss die Komfortzone verlassen.(ラクなことから離れて、チャレンジしないと)」。

ベンさんの「仕事に集中」の鍵は、年2回の「自転車の旅」にあるのでした。

休み中に「メールは見ない」「PCは持っていかない」

ベンさんもこう言います。「休暇で一番大事なのはスイッチオフ」。したがって、職場のメールを「○月○日まで不在にしております」と設定したあと、休暇中に「基本的にはメールは見ない」とのことです。

木製のテーブルの上の携帯電話
※写真はイメージです

「昔は休暇中にメールを見ることもあった。でもそうすると一気に仕事モードになって、リラックスした気持ちはどこかへ飛んでいっちゃう。それに休暇中にメールを見ても、どのみちその場(休暇中)では解決できない問題ばかりだよ。だから今はもう仕事のノートパソコンは休暇に持って行っていないんだ。

今、僕は昔より精神的に大人になったと思う。哲学的に聞こえるかもしれないけど、『自分はそれほど大事ではない』ということがいい意味でわかった。会社は大好きだけれど、冷静に考えると、僕がいなくたって、会社がつぶれるわけではない。そして必ず代わりがいる。『自分がいなくても、会社はまわる。仕事はまわる。だから大丈夫』ということをいい意味で『悟る』ことは、自分のハピネスにつながると思う」と話します。

【実践できること 「自分がいなくても会社はまわる」と考える】

休みの日にメールを見るのは最低限だけにし、仕事のことで思いつめないようにする。こういったことは「最初」が肝心です。

「休み中も常に連絡がつく人」にならないようにしましょう。「毎週、週末は山に行っています。電波は入りません」と宣言してしまうのも、あり。仕事で悩むのは会社にいるときだけでじゅうぶんです。

それ以外の時間は「考えない」ようにしましょう。

休まないと、ゆくゆくはエンジンが動かなくなる
サンドラ・ヘフェリン『有休取得率100%なのに平均年収が日本の1.7倍! ドイツ人の戦略的休み方』(大和出版)

「休みが少ないと、精神的に余裕がなくなり、体だってやつれる。仕事の効率に関して言えば、『人間にとって悪い』ことは『会社にとっても悪い』んじゃないかな。例えば心身ともにギリギリの状態でやった仕事と、リフレッシュ後にやった仕事では、やっぱり仕事のスピードも出来も違う。休みを取るというのはモーターにエンジンがかかるようにするということでもある。休まないとエンジンはかからない、またはゆくゆくは動かなくなる」。

最後のフレーズの「休まないと、ゆくゆくはエンジンが動かなくなる」という言葉が私には響きました。

仕事のしすぎで、心身ともにバランスを崩し、うつになる人もいますが、そのような場合、遠因のひとつに「休まなかったこと」があります。ベンさんはこう続けます。

「やっぱりバランスが大事。バランスとは規則正しいサイクルのこと。『気が張る(仕事)→リラックス(休暇)→気が張る(仕事)』というサイクルをつくるのは、いい仕事をする上で欠かせないことなんじゃないかな」。

サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など、『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)、『有休取得率100%なのに平均年収が日本の1.7倍! ドイツ人の戦略的休み方』(大和出版)などがある。 ホームページ「ハーフを考えよう!」

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