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35年前、“笑わないアイドル”が放った“儚い煌めき” “無表情”で人気を博したワケ

  • 2025.11.20

「35年前の冬、街のスピーカーから流れていたあの音を覚えてる?」

1990年の冬。バブルのきらめきがまだ街を包んでいた頃、通りにはネオンが溢れ、最新のウォークマンを耳にした若者たちが、音の中に小さな自由を見つけていた。そんな冬の空気に、ひと筋の幻想を描いたような曲があった。

Wink『ニュー・ムーンに逢いましょう』(作詞:及川眠子・作曲:門倉有希)――1990年11月21日発売

デュオとして確固たる人気を誇っていたWinkが放った9枚目のシングルは、パナソニックのヘッドホンステレオCMソングとしても注目を集めた。アップテンポのユーロビートに、どこか東洋的な旋律を溶かし込んだこの曲は、彼女たちの新たな一面を印象づける一曲となった。

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Winkコンサートより-1990年撮影(C)SANKEI

月明かりに照らされた“無表情の魅力”

Winkといえば、”笑わないアイドル”として時代を象徴した存在だった。派手な衣装と無表情なパフォーマンス、そして静かな佇まいの中に漂う独特の美学。それは1980年代後半の「アイドル像」に一線を画すもので、無言のままに心を揺さぶるスタイルだった。

『ニュー・ムーンに逢いましょう』は、そんな彼女たちのイメージをさらに深化させるような一曲だった。門倉聡が編曲を担当し、煌めくビートの中に繊細なシンセサウンドを重ねることで、夜の都会に似合う洗練された空気を生み出している。

“アジアの香り”をまとったユーロビート

当時の日本の音楽シーンでは、ユーロビートやテクノポップがブームを巻き起こしていた。だがこの曲は、単なるダンスチューンではない。イントロから漂うオリエンタルなフレーズが、リスナーを一瞬で異国の夜へと誘う。

「きらびやかなのに、どこか儚い」――そんな矛盾が、この曲の魅力そのものだった。

西洋的なビートの中に日本的な旋律感を忍ばせたアレンジは、門倉聡ならではの美学が光るポイント。エレクトロの冷たさとアジア的な情緒が交わることで、Winkの透明感ある歌声がより幻想的に響く。

“日常の中の非日常”を描いた冬のポップソング

『ニュー・ムーンに逢いましょう』の世界観には、夜更けの都会でふと足を止めるような静けさがある。クラブの光でも、ドラマティックな恋でもない。ごく普通の生活の延長にある「一瞬のきらめき」を切り取ったような歌だった。

CMで流れた時、ウォークマンを手にする若者たちの姿とこの楽曲の音像がぴたりと重なり、音楽が日常を少し特別にしてくれる――そんなメッセージを感じさせた。

当時、街にはまだアナログの温かさが残り、夜の空気はどこか優しかった。その中でこの曲は、電子音の冷たさではなく、人の呼吸を感じるユーロビートとして響いていたのだ。

Winkという“儚さのスタイル”

Winkが生み出した世界は、単なる双子のような可憐さではなく、「儚さを魅せる」ための演出に満ちていた。彼女たちの表情が動かないのは、感情がないからではなく、聴き手の想像を引き出すため。

『ニュー・ムーンに逢いましょう』は、そんな無表情の奥に潜む情感を音で表現したような作品だった。まるで満ち欠けする月のように、静かに輝きながらも消えていく美しさ。その一瞬を閉じ込めたようなサウンドは、今聴いても古びることがない。

“光と影”が共存した時代の象徴

1990年という年は、バブルの熱気とその終わりが共存していた。華やかな街の灯りの裏に、少しの不安と静けさが混ざっていた。『ニュー・ムーンに逢いましょう』は、まさにそんな時代の「光と影」を音で描いたような作品だ。

聴くたびに、街のネオンの向こうに、見えない月の輪郭を探してしまう。Winkが放ったこの曲は、「時代の表情を、音で記録した」ひとつのアートピースだったのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。