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「男の性欲、まぢキモい」… 令和の女性たちが 【性嫌悪】 をさけぶ “もう一つの理由” とは マチアプ時代が生んだ「階級意識」と「実利的戦略」

  • 2025.10.26

性欲を毛嫌いする女性たち、その心理は

なぜ令和の女性たちは性欲を嫌悪するのか ※画像はイメージです
なぜ令和の女性たちは性欲を嫌悪するのか ※画像はイメージです

「性欲のない彼氏が欲しい」「交際相手に性欲を自分に向けないでほしい」「付き合ったら絶対セックスしなきゃいけないの?」――。匿名で意見を発信できるSNSでは昨今、自身や他者の性欲を忌避する若年女性たちのつぶやきが散見されます。ただ遠ざけるだけでなく、強く嫌悪する主張が少なくないのも特徴。彼女たちが性欲を“汚いもの”“唾棄すべきもの”と捉える背景にはどのような心理があるのでしょうか。

X(旧ツイッター)のタイムラインで見られるのは、「イチャイチャは好きだけど“やる”のは嫌い」「外に女作ってもらっていいので」と、セックス抜きの関係を望む声。また「プラトニックな恋愛がしたい」「私に性欲を向けない人しか好きになれないジレンマ」と、性欲を感じさせない相手に引かれる複雑な心境の吐露も見られました。

これらの投稿は、性欲の介在しない恋愛こそ理想であり、あるべき姿と位置付けるもの。同時に「男の性欲キモい」と、他者(異性)の性欲へも嫌悪を向ける声が少なくありません。

女性のこうした心情を端的に表す議論が2025年4月に勃発しました。通称「メロシコ論争」です。

若い女性を中心に近年使われるようになった新語「メロい」(メロメロになるほど魅力的)を、男性の露骨な性欲表現「シコい」と同一視する意見を有名男性アカウントが発信したところ、女性ユーザーたちが一斉に強い嫌悪を表明したのです。「メロい」は胸キュン、憧れ、ロマンチックな魅力を指すもので、直接的な性的興奮や消費的な視線を向ける「シコい」とは全くの別物だとする意見が大勢。「断じて一緒にされたくない」「男の感覚で女性の心情を単純化するな」などの反論が相次ぎました。

ただ、例えば成人した男性が10代の女性アイドルのファンを公言すれば「ロリコン」などの批判を向けられるのに対し、性別が逆の場合は「メロい」と表現され、「純粋な応援」「子どもの成長を見守る気分」と正当化される非対称性に対しては、男性側から欺瞞(ぎまん)を指摘する声も多数上がりました。

こうしたX上の議論では、女性が自身の性欲の存在を否定し、男性の性欲を「キモい」と唾棄すればするほど男性側からの反発が増え、互いの解像度が上がらない実態が明確になっていっています。

極端な自由恋愛市場が生んだ弊害について

実際に性欲の薄い女性も一定数はいるものの ※画像はイメージです
実際に性欲の薄い女性も一定数はいるものの ※画像はイメージです

なぜ女性たちはこれほどまでに性欲を嫌悪するのか。社会的背景としては、教育の場や家庭内で性欲を「汚いもの」「抑えるべきもの」と教えられてきたことがあると考えられます。その源流でもある仏教や儒教の「欲 = 煩悩」といった価値観が、特に女性に強く内面化されていることも理由の一つに挙げられるでしょう。

ただ、そうした社会的・文化的要因は今に始まったものではなく、現代女性の“性欲観”をひもとく上で十分な説明にはなりません。現代的要因を探る上で不可欠なのは、マッチングアプリに代表される「極端に自由化が進んだ現代の恋愛市場」、そしてそれらが生み出した「階級意識」と「実利的戦略」という視点だと筆者は考えます。

ご存じの通りマッチングアプリ(略称:マチアプ)は、無数の登録者の中から身長、体形、年収、在住地などの“条件”で絞り込み、理想の相手を探すためのツール。仮に女性が高収入の男性と出会いたいのなら、年収500万円より700万円、700万円より1000万円と条件をつり上げる方が理にかないます。逆に年収300万円の男性とDMのやり取りをしたり実際に会ってお茶を飲んだりすることは、彼女にとって意に染まないどころか時間のムダにしかなりません。

男性と比べて圧倒的にマッチ率の高い女性は、“年収300万円”の男性を“格下”と見なし、彼らから性欲を向けることを極端に嫌います。格下相手の歓心に応えることは、理想の結実を阻害する要因になると同時に、自身の格をも下げることにつながりかねないからです。

意中ではない男性に対し女性が向ける“嫌悪の決まり文句”としてすっかり定着した「キモい」は、詰まるところ「相手の性欲」に対して向けているもの。たとえ男性が親愛や尊敬の念から女性に興味を寄せたとしても、女性側はそれらの根底に性欲があると断罪し、「キモい」「こっち見るな」と男性の存在を拒否するのです。

しかし、このように強烈に嫌悪すべき対象として他者の性欲を否定しながら、一方で自分自身も性欲を擁することを認めるとどうなるか? 言うまでもなく明白な自己矛盾を引き起こします。そのため女性は、性欲の自覚を避ける心理に陥りがちというのが筆者の持論です。本来的には性欲に根ざしているはずの感情を「メロい」というゆるい言葉でコーティングし、性欲とは無関係な“きれいなもの”として自己処理する手法。広義には、高年収や高身長の異性を求めることもまた性欲の一種であるにもかかわらず。

相手に要求を飲ませるための戦略カード?

さて、以上を「階級意識」とするならもう一つの現代的要因「実利的戦略」とは何でしょうか。これは、女性が性欲に対する忌避という心理を超えて“戦略的カード”として活用するようになったという指摘です。

マチアプに代表される過剰な自由恋愛市場においては、前述の通し少しでも良い条件を相手の男性から引き出せた女性こそが真の勝者。その際に最も重要かつ有効な取引材料となるのが、相手の性欲に応えるか否かです。

例えば、Xに散見される「普段から配慮を感じられなくなったら冷めるし、怒りで体が受け付けなくなる」「女性にとっては日頃の行いが全て。家事や気遣いが足りなければ嫌悪感しかない」「(行為を)拒否するのは、面倒くさいからではなく相手への怒りから」「あんなオトコに応える義理はない」といった意見は、相手の平素の振る舞いが性行為の“交換条件”となる心理を如実に表しています。

すなわち、女性がパートナーとの関係性を有利にコントロールしようとする戦略的側面を示唆しており、その傾向を裏付けるように近年では、妊娠や出産を経験した妻にお祝いや感謝を込めてジュエリーなどのプレゼント贈る「プッシュギフト」が盛んに取り上げられるなど、女性の要求がつり上がっているとの指摘が増加傾向にあるようです。

性の悪循環を断ち切るため、男女がすべきこととは

しかしながら、このような女性の“戦略”は、少なくない数の男性からさらなる反発を招いているのも事実です。「どこまでつり上がるか分からない要求を飲むくらいなら、パートナーは要らない。一人や男友達といるのがいい」「“くれくれ”ばかりで浅ましい」など、逆に男性から女性に嫌悪を向ける要因にさえなっているのです。

男性を疲弊させる“くれくれ”の実態については、マチアプだけでなく「夜職」「パパ活」など性を換金する女性の実態がSNSなどで広く知られるようになったことなども関係していると思われますが、それについてはまた別の機会に譲りたいと思います。

女性が性欲を「汚いもの」と位置付け、その忌避感をパートナー(候補者含む)への“条件闘争”“奉仕要求”という実利的カードとして活用するほど、男性側はそうした振る舞いを「浅ましい欺瞞」として嫌悪し、両者の対立を悪化させるという「性の悪循環」が生まれているのです。

この悪循環を断ち切るには、女性側が性欲を「汚い煩悩」ではなく「人間的な欲求」と自覚すること、そして男性側が、女性側がしばしば主張する性欲嫌悪につながる「出産・育児リスク」に理解を示しつつ、過度なつり上げはスルーする冷静な姿勢を見せることも必要かも知れません。

SNS上で互いを否定し合うだけでは、自由恋愛市場の過剰化がもたらした男女対立と不信感をさらに深めることにしかならないでしょう。

(山嵐冬子)

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