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【60代エンタメ】心に響く言葉と出合える本 『つるとはな ミニ?』誕生秘話【好奇心の扉・後編】

  • 2025.10.6

人生の先輩の話を聞く雑誌、『つるとはな』をご存知ですか?

昨年、7年ぶりに第6号となる『ミニ?』が出版されて約1年が経ちました。現代短歌の第一人者である馬場あき子さんや、料理研究家のホルトハウス房子さんの暮らしぶりなど誌面には、素敵世代にとっても先輩となる方々の魅力的な記事が並んでいます。

編集長・岡戸絹枝さんは2014年の創刊時には59歳。それから10余年、岡戸さんが60代をかけて手がけた本作りの話をじっくりと伺います。今回は後編をお届けします。 

2014年の創刊以来、『つるとはな』のバックナンバーを揃えたコーナーを設けている書店も少なくないという。創刊号の表紙写真は、ホルトハウス房子さんと夫の故・レイモンドさん。それから10年経っても、『ミニ?』の表紙で微笑むホルトハウス房子さんのチャーミングな表情は変わらないように見える。

『ミニ?』始動のきっかけは99歳の女性との出会い

第5号を刊行した2017年から『ミニ?』まで、なぜ7年間の空白があったのでしょう。

「第5号まで出したところで、私がちょっとお休みしたくなったんです。終わりにするつもりはなかったのですが、その後コロナ禍があり、マスク生活では取材に行っても顔が見えないのは嫌だな……と思っていたら、あっという間に7年が経ってしまいました(笑)」

そんな岡戸さんが『ミニ?』を作ろうと思い立ったのは99歳になる、ある女性との出会いから。趣味であるテニス仲間の70代の女性から「今日は母の誕生日だから、うなぎ食べなきゃ」というひと言を聞き、思わず根掘り葉掘り聞き出した岡戸さん。

「テニス仲間のお母様は月に3回麻雀を楽しまれているとも伺い、ぜひ会いたいとお願いしました。その友人とは『つるとはな』の話をしたことなんて一度もないのに『いいわよ』と快く紹介してくださって。お目にかかったら、もう素晴らしくユニークな方でした。それで、もっとお話を聞きたいと思って。そこから『ミニ?』の構想が動き始めました」

岡戸さんは事前に取材候補に会って、実際に取材をお願いするかどうかを決めることにしているそうです。

「私が行くことが叶わない場合もありますが、担当の編集者がお目にかかってから取材に臨んでいます。『つるとはな』は1年に1冊という刊行ペースだったので、できたことかもしれません。会ってお話をして、その方の人生の話に趣きがあったり個性的だったりすると、取材をしてもっと聞きたくなる。素敵な表情をされていると、いい毎日を過ごしていることが伝わってくるんです」

そして『ミニ?』の取材を始めて岡戸さんが感じたのは、ここ数年で年配の方々の健康年齢が10歳ぐらい上がったのでは?という手応えでした。潑剌とした先輩たちの元気と笑顔が、岡戸さんの背中を押して、『ミニ?』はできあがったと言えるかもしれません。

好きなものを大切にしているとそれは自然と自分の実となっていくように思います

「自分が惹かれたものから仕事が生まれる」という岡戸さん。自身が大切にしている人・愛すべき人にまつわるエピソードや取材による記事も多い。

『つるとはな』第5号で紹介された、岡戸さんの盟友である、故・遠山こずえさんからのハガキ。山形県鶴岡市に移住のため会社を退職したあと、現地でフラダンスの教室をたちあげた遠山さんは、岡戸さんとは同期入社で仲がよく、『つるとはな』のための取材候補探しにも大いに協力してくれたが「実際に取材したのは、亡くなった後の遠山さんご本人のことでした」。

『つるとはな』創刊号でインタビューした小澤征爾さんも岡戸さんの会いたかった人。写真は岡戸さんの愛聴CDである、小澤さんがボストン交響楽団を指揮した『ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集』。1980年代初頭に録音されたもので、ピアノ演奏は20世紀を代表するピアニスト、ルドルフ・ゼルキンさん。

岡戸さんが大ファンだった古今亭志ん朝さんは『つるとはな』第2号で取り上げた。演芸・演劇評論家、故・矢野誠一さんによる志ん朝さんの思い出を綴ったエッセイでは、岡戸さんもおすすめの『火焔太鼓』『文七元結』を紹介。写真は岡戸さんが大切にしている『落語研究会 古今亭志ん朝全集』上下巻(写真は下巻)/DVD-BOX /発売元:TBS、販売元:ソニー・ミュージックダイレクト

時間とともに仕事は自然と区切りがついていくもの

『ミニ?』を作り終えて、現在は「ほぼ仕事はしていません」と岡戸さん。ご自身の年齢と、仕事や暮らしへの向き合い方のバランスについて尋ねると……、

「最近は本当に規則正しい生活をしていて、そのせいか毎日があっという間に過ぎています(笑)。仕事や家事というのは、自分でコントロールしているつもりでも、長い時間とともに自然と区切りがついていくんじゃないかなとも思いますね。たまたま自分がしている編集という仕事は、好きなことを続けているとなにかに役立つというか、実になるものじゃないかなとも感じるんです。

『これ、いいね』と思ったものが、思わぬなにかにつながっていくような予感もあります。それを生かすのか生かさないのかは自分次第なのかな。ささやかなことでもいいんだけど、日々の楽しみを発見、勉強することが、いまの生活に新しいなにかをもたらしてくれるような気がします。それだけでは編集者としては充分とは言えないかもしれないけれど、これからのことは、まあ、迷ったりしながらですかね?」。

お話を聞いた方

岡戸 絹枝(おかど きぬえ)さん

『つるとはな』編集長。1955 年埼玉県生まれ。立教大学文学部卒業。1981 年マガジンハウス入社。『週刊平凡』『Hanako』『 Olive 』などの編集に携わり、1998 年から『Olive』編集長。2002 年には『ku:nel』を創刊し、編集長。2010年マガジンハウス退社。2014年『つるとはな』を創刊。

撮影/久家靖秀 構成・文/杉村道子

※素敵なあの人2025年11月号「『ページをめくるたびに、心に響く言葉と出合う つるとはな ミニ?』ができるまで」より
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売を終了している場合があります。
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この記事を書いた人 素敵なあの人編集部

「年を重ねて似合うもの 60代からの大人の装い」をテーマに、ファッション情報のほか、美容、健康、旅行、グルメなど60代女性に役立つ情報をお届けします!

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