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「あと100万円、なんとか安くなりませんか?」が招いた“誤算”…一級建築士が『そこだけは削るな』と叫ぶ3つの聖域。

  • 2025.10.24
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「あと100万円、なんとか安くなりませんか?」

――その一言が、Dさん(30代・夫婦+子ども1人)の家づくりを大きく狂わせました。

2年前、Dさんは念願の注文住宅を建てました。打ち合わせの途中で予算が膨らみ、SNSで見た「断熱材のグレードを下げても、ほとんど体感は変わらない」「サッシはアルミで十分」の情報を真に受けます。設計担当は難色を示したものの、「少しでも安くしたい」という思いが勝ちました。

完成した家は外観も内装も理想通り。

しかし、入居から半年後、Dさんは“恐怖のコストカット術”の代償を痛感することになります。

冬の朝、息が白くなるリビング

「朝起きてリビングに行くと、まるで外にいるみたいに寒い。暖房を入れても足元が冷たく、窓の近くでは冷気が流れているのがわかるほどでした。」

暖房を強くしても部屋が暖まらず、電気代は月4万円を超えました。吹き抜けの上部には結露が発生し、天井近くのクロスが黒ずみ始めます。

原因は、設計時に“削った部分”。

シングルガラスのアルミサッシ、メーカーの中でも最薄の断熱材、そして断熱欠損が生じやすい吹き抜け構造。

見た目はおしゃれでも、住み心地はまるで冷蔵庫のようでした。

「安くできる」は“削れる”ではない

Dさんが行ったのは、いわゆる「減額調整」。建築費を抑えるために、仕様を見直すこと自体は悪いことではありません。

しかし、削る場所を間違えると、それは“命と健康を削る調整”になってしまいます。

Dさんはこう振り返ります。

「壁紙の色や照明を減らすくらいならよかった。でも、断熱材を減らすのは“家の性能”を削る行為でした。まさか、毎日コートを着て過ごすことになるなんて思ってもいませんでした。」

一級建築士が警鐘――「削ってはいけない3つの聖域」

筆者(一級建築士)としても、Dさんのようなケースを何度も見てきました。

家づくりで“見えない部分”を軽視すると、住み始めてから後悔が押し寄せます。

削ってはいけない「3つの聖域」は、次の通りです。

・断熱性能(床・壁・天井)
→ 一度建てたら簡単に直せない。健康や冷暖房費、家の寿命に直結します。
・窓・サッシの性能
→ 家の熱の約6割が窓から逃げます。アルミサッシや単板ガラスは“冷気の入り口”。樹脂サッシやダブルガラスは初期費用が高くて
も、ランニングコストに必ず差が出ます。
・構造・基礎の耐久性
   → コスト削減で基礎杭や筋交いを減らしたりするのは論外です。耐震等級に影響し、家族の命を左右する部分です。

これらはすべて、「やり直しが難しい箇所」です。

内装や照明はリフォームで変えられますが、構造と断熱は建てた瞬間に“固定”されてしまうのです。

Dさんの後悔――「外観は立派でも、中身がスカスカ」

「外壁もキッチンも自慢でした。でも、冬は寒くて夏は暑い。外から見れば新築でも、中にいるとボロ家のようです。」

不満を解消するため、Dさんは結局、樹脂サッシとダブルガラスの交換を追加で実施。

当初、削って浮かせた金を、数年後に“やり直し費用”として支払う結果になりました。

「最初に設計担当の助言を聞いていれば、こんなことにはならなかったと思います。」

「性能は見えないけれど、裏切らない」

家づくりで大切なのは、「見た目の豪華さ」ではなく「性能の地味さ」です。

断熱や構造は、完成後には隠れてしまう部分ですが、そこで差が出るのは“暮らし始めてから”。

もし、コストカットを提案されたときは、こう自問してください。

「これは、将来リフォームで直せる部分か?」

もし答えが「NO」なら、削ってはいけません。

「見えない部分にこそ、お金をかける」――それが、“後悔しない家づくり”の原則です。

“建てる瞬間の安さ”より、“住み続ける安心”を

Dさんのように「安く建てたい」という気持ちは、誰にでもあります。

しかし、“家の性能”を削る節約は、いずれ“暮らしの質”を削ることになります。

「建てた瞬間の満足」より、「20年・30年後も快適に暮らせる安心」を選ぶこと。

それが、本当に“得をする家づくり”です。

安くすることは、誰にでもできます。

けれど、削らない勇気こそが、本当の家づくりの力なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。