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新築を購入も「まさか隣に…洗濯物も干せない」1年後、30代夫婦が泣き寝入りした“大誤算“【一級建築士は見た】

  • 2025.10.19
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出典元;photoAC(画像はイメージです)

「最初の1年は本当に静かで、“理想のマイホーム”だと思っていました。」
Aさん(30代・女性・夫婦+子ども1人)は、郊外に念願の新築戸建てを購入しました。
リビングからは広い空き地が見え、日当たりも風通しも良好。
「営業担当者からも“今は更地で、特に開発予定はありません”と説明を受けていました。」

しかし入居から1年後、Aさんの生活は一変します。

「まさか、隣に工場ができるなんて…」

「最初は“また住宅が建つのかな”と思っていました。でも、工事が進むうちに大きなシャッターや煙突のような設備が見えてきて…。嫌な予感がしました。」

やがて工場の稼働が始まると、昼夜を問わず機械音や金属を削る高音が響き、油のようなにおいが風に乗ってリビングに漂いました。
「窓を開けると空気がどんよりして、洗濯物も外に干せません。以前は庭で遊んでいた子どもも、今では家の中で過ごす時間が増えました。」

なぜ“住宅街”に工場が建ったのか

Aさんの家が建つエリアは「準住居地域」に指定されていました。
この地域では、住宅のほかに店舗や事務所、小規模な工場などの建設が可能です。
つまり、隣に工場が建ったのは違法ではなく、正当な開発だったのです。

「不動産会社に相談しても、“法律的には問題ありません”の一点張りでした。静かな住宅街だと思っていたのに、まさか“合法的に工場が建つ場所”だったなんて知りませんでした。」

契約時に受けた「重要事項説明書」には確かに“用途地域:準住居地域”と記載がありました。
しかし、多くの購入者にとってその意味を正しく理解するのは難しいことです。
「“住居系の地域”であれば、静かな住宅地を想像してしまいますよね。」

「今の静けさは、将来続くとは限らない…」

購入当時、隣地は更地であり、特に開発の動きはありませんでした。
Aさんも「このまま住宅地が広がるのだろう」と思っていました。
しかし、用途地域が変わらない限り、「どんな建物を建てるか」は所有者の自由です。

「“今は静か”というだけで安心していました。でも、将来どんな建物が建っても止められない。そんなこと、誰も教えてくれませんでした。」

工場の建設が始まってから、Aさんは役所にも相談しましたが、「建築基準法上は問題ありません」と説明されるだけでした。
行政も法的に建設工事を止められる立場になく、結果としてAさんが泣き寝入りするしかなかったのです。

「生活のストレスは大きいけれど、違法じゃないと言われると何もできません。」
Aさんは今も耳栓と空気清浄機を手放せない生活を送っています。

一級建築士が見る原因――“用途地域”の盲点

住宅を購入するとき、多くの人が「間取り」「立地」「価格」を重視します。
しかし、見落とされがちなのが“用途地域”という制度です。
これは、建てられる建物の種類や高さを制限するもので、都市計画法に基づいて指定されています。

なかでも「準住居地域」や「近隣商業地域」では、住宅と工場、商業施設などが混在する構造になっています。
つまり、見た目は住宅街でも、法的には工場が建てられる土地なのです。

一級建築士の立場から見ると、Aさんのようなトラブルは決して珍しくありません。
「静かな場所だから」「周囲が住宅ばかりだから」という印象で土地を選ぶと、将来的なリスクを見落とすことになります。
広告にある“閑静な住宅街”という表現も、今の状態を指すものであり、未来を保証するものではありません。

後悔を防ぐためにできること――“今”より“将来”を確認する

家を購入する際は、次のような点を確認することが大切です。

  • 都市計画図で、用途地域を確認する
  • 「準住居地域」「近隣商業地域」などでは、工場や店舗の建設が可能
  • 開発計画や建築確認の情報を確認する
  • 都市計画マスタープランなどで、将来の土地利用方針を調べる

これらの情報は、役所で誰でも確認できます。
しかし、購入者が自ら動かない限り、不動産会社から説明されないことも多いのが実情です。

「静かな街」も、永遠ではない

Aさんの事例は、「今静かだから安心」と思い込んだ結果の大きな誤算でした。
静けさは“現状”でしかなく、将来の開発までは誰も保証できません。
準住居地域は、住宅と工場が共存するエリアであり、環境が変わるリスクを前提に考える必要があります。

「この家で長く暮らすつもりでした。でも、今は“いつか引っ越したい”と考える毎日です。」

“住宅地=静か”という思い込みは危険です。
家を買う前に、「今の環境」だけでなく「この土地がどう変わる可能性があるか」を確認する。
それが、後悔しない家選びの第一歩なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。