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築40年一戸建てを相続した50代男性→“たった1cm”で資産価値がゼロに…思わぬ大誤算【一級建築士は見た】

  • 2025.10.17
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出典元;photoAC(画像はイメージです)

「まさか相続した家が“違法建築物”だなんて思いもしませんでした」
Cさん(50代男性)は、両親から相続した築40年の一戸建てを売却しようとしました。
老朽化も進んでおり、不動産会社に売却を相談。
ところが、査定の結果は思いがけないものでした。

「この土地、建物を建てることができません。土地が道路に1.99mしか接していませんでした。」

図面上は確かに2mと記載されています。しかし、現地を確認するとわずかに1cm足りず、「接道義務を満たしていない土地=再建築不可」と判断されました。
結果、Cさんの家は「建物があるのに資産価値ゼロ」という“売れない土地”になってしまったのです。

1cmの誤差で“違法建築物”に

建築基準法では、建物を建てるための条件として「道路に2m以上接していること(接道義務)」が定められています。これは消防車や救急車が通れるようにするための安全上の基準で、2mを1mmでも下回れば建築不可とされます。

Cさんの家は、建築当時に「図面上で2mある」として役所の建築確認を取得していました。ところが、完了検査を受けていなかったため、現地の実測寸法(1.99m)までは確認されていなかったのです。
「たった1cmの差」で、建て替えも売却もできない土地に変わってしまいました。

「40年前に合法的に建てられた家なのに、今は“違法状態”なるなんて…。役所に相談しても、“現況で2mないと再建築はできません”の一点張りです。」

Cさんは不動産会社から「再建築不可の土地は、買い手がつかない」と説明され、愕然としました。

“完了検査”を受けなかったツケ

Cさんの両親がこの家を建てたのは、昭和の後半。
当時は現在のようにコンプライアンス意識が高くなく、完了検査を受けずに入居することは珍しくありませんでした。「役所の検査は形式的」「住めるなら問題ない」という風潮があり、完了検査の申請が省略されていた住宅は少なくないのです。Cさんの家もそのひとつでした。
そのため、“図面上の建築確認”しか残っておらず、現況を示すデータは存在しません。
Cさんが役所に確認を求めても、返ってきたのは冷たい現実でした。

「建築確認はあくまで図面審査であり、実測までは保証できません。現地が2m未満であれば、再建築は認められません。」

一級建築士が見る原因――“図面の2m”と“現地の2m”は別物

役所の工事前の建築確認は、あくまで「図面上で法的基準を満たしているか」を審査する仕組みです。造成工事やブロック塀、隣地境界のズレによって数cmの誤差が生じることがあります。特に昭和の時代は測量精度も現在ほど高くなく、境界杭の位置が曖昧なまま造成された分譲地も多く存在します。
建築確認は設計段階の法適合をチェックするものであり、役所の完了検査を受けなければ、実際の現況が法に合っているかは誰も保証してくれません。

 “今、建っている”=“未来、建てられる”ではない

Cさんのようなトラブルを防ぐには、購入・相続の前に次の確認をしておくことが重要です。

  • 現況測量図を作成し、実際の接道距離を確認する
  • 完了検査済証の有無をチェックする
  • 法務局で地積測量図・登記簿謄本を確認する
  • 不動産会社や建築士に「再建築可否」を事前に相談する

特に築30年以上の住宅では、完了検査を受けていないケースが多く、「現況と図面が違う」ことは珍しくありません。

図面の安心ではなく、現地の現実を見よ

Cさんの事例は、「合法的に建てられた家でも、現況が法に合っていなければ再建築できない」という現実を示しています。
わずか1cmの誤差が、何千万円という資産を左右する――それが接道要件の重みです。

「家は残っているのに、建て替えできない。それが一番つらいです。まさか“建て替えられない土地”を相続していたなんて……。」

家を建てるときも、売るときも、“図面の数字”ではなく、“現地の真実”を確認すること。
それが、後悔しないための唯一の防災策であり、資産を守る第一歩なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。