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「耐震等級3なので安心です」営業マンの言葉を信じた夫婦。大地震で“無傷”だった我が家が、なぜ「居住不能」に?【一級建築士は見た】

  • 2025.10.14
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出典元;photoAC(画像はイメージです)

Tさん(40代・男性・夫婦+子供2人)は3年前、新興住宅地に念願の新築住宅を構えました。営業担当者からは「最新の耐震基準を満たしているので、どんな地震でも安心ですよ」と説明を受け、土地の条件には特に疑問を持たなかったといいます。

しかし、2024年の能登半島地震でTさんの家は思いもよらぬ現実に直面しました。

地震の翌朝、玄関は二度と開かなかった

建物は大きな損傷もなく「外見上は無事」でしたが、地盤沈下と擁壁の崩落によって敷地そのものが歪み、玄関ドアが開かなくなったのです。外観は残っていても、もはや「安全に住める家」ではなくなっていました。

「家族が無事だったのは本当に幸いでした。でも、家が立っていても“住めない”なんて、考えたこともありませんでした。」

Tさんは、そう語りながら肩を落としました。

「家は無事」なのに“暮らせない”現実

筆者は、能登半島地震の被災地を現地で取材しました。そこには、Tさんと同じように「建物自体は無傷なのに住めない家」が数多くありました。

原因の多くは「土地」や「地盤」にあります。造成地では、地震によって地中の水分が揺さぶられ、液状化が発生しやすくなります。また、擁壁(ようへき)が古かったり、設計が不十分だったりすると、崩落して家ごと傾くケースも見られます。

つまり、「耐震等級3」とは建物の構造が強いことを示すだけであり、土地の安全性までは保証していません。

「建物が壊れない=安全に暮らせる」とは限らないのです。

Tさんの後悔――「“地盤”より“建物”ばかり見ていた」

「営業担当に“耐震等級3だから地震にも強いですよ”と言われて、完全に安心しきっていました。ハザードマップも“洪水区域ではないから大丈夫”と軽く見ていましたし、“造成地”という言葉の意味もよく理解していませんでした。」

Tさんが家を建てたのは、もともと田畑だった土地を造成してつくられた新興住宅地でした。

地盤改良はされていたものの、地震の揺れで地中の水分が噴き出し、液状化現象が発生。敷地全体が数センチ沈下しました。さらに、隣地との境界にあった擁壁が一部崩れ、敷地の一角が大きく傾いてしまったのです。

建物自体は倒壊していませんでしたが、基礎が歪んだことでドアやサッシが開かず、内部の安全も確保できませんでした。

「地震保険には入っていません。耐震等級3だから、まさか地震が原因で住めなくなるとは考えてもいませんでした。国からの『被災者生活再建支援金』も数百万円程度で、とても再建には足りません。」

現在、Tさん一家は仮住まいで生活を続けています。

「“建物さえ強ければ安心”と思い込んでいました。でも、本当に見るべきだったのは、“家”ではなく“土地”だったと痛感しています。」

一級建築士が見る原因と対策

Tさんのような被害は、住宅の耐震性能だけでは防ぐことができません。根本的な原因は、「宅地の地盤リスク」を軽視した計画にあります。

原因①:造成地の地盤沈下

もともと田畑や谷地形を埋め立てて造成された土地では、地下に柔らかい粘土層が残っている場合があります。地震の揺れで地中の水圧が上昇すると、液状化や沈下が起こり、建物が傾いたり基礎が浮き上がったりする可能性があります。

原因②:擁壁の老朽化

隣地との高低差を支える擁壁が、旧基準(昭和時代のもの)や無許可施工だった場合、地震時に崩落する危険があります。

対策:購入前に土地の“履歴”を確認すること

・その土地が過去にどんな用途だったか(田畑・盛土・谷地形など)を調べる

・市区町村に「開発許可図面」や「造成履歴」、「宅地造成等規制法エリア」を確認する

・擁壁がある場合は、構造図や施工時期をチェックする

・ハザードマップは洪水だけでなく「液状化」「土砂災害」も必ず確認する

家を建てる際は、「建物」と「土地」を切り離して考えてはいけません。どんなに強い建物でも、土地が動けば暮らしは守れないのです。

 “建物の強さ”だけでは家は守れない

Tさんの事例は、「耐震等級3=絶対に安全」という思い込みに警鐘を鳴らしています。建物の構造が強くても、地盤や擁壁が不十分であれば、暮らしそのものが成り立たなくなります。

能登半島地震の被災地では、“家は無事でも住めない”という現実が数多く見られました。真に安心できる家づくりとは、「耐震+地盤+土地計画」を一体として考えることです。

「建物を建てる前に、土地を調べる」――それだけで守れる未来があります。耐震性能だけに目を向けず、“地盤の安全性”というもうひとつの耐震力を見極めること。

それこそが、家族を本当の意味で守る防災の第一歩なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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