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35年前、角川映画を彩った“荘厳で孤高な”異色テーマ 天才が叩きつけた“壮大な静寂ソング”

  • 2025.10.22

1990年。街にはネオンが溢れ、ファッションも音楽も華やかさを競っていたが、その裏には“未来への不安”が静かに息づいていた。そんな時代に、ひとりの音楽家が壮大なスケールで“静寂”を描いた。

小室哲哉『天と地と〜HEAVEN AND EARTH〜』(作詞・作曲:小室哲哉)――1990年4月21日発売

ソロとしての4枚目のシングルであり、角川映画『天と地と』のイメージソングとして制作された。映画の劇伴(サウンドトラック)も小室自身が手掛けており、この時点で彼はすでに“映像と音の融合”という新しい領域に踏み出していた。

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小室哲哉 (C)SANKEI

音で描かれた“戦国の詩”

この『天と地と〜HEAVEN AND EARTH〜』は、戦国時代を舞台にした映画の壮大な世界観を支えるために生まれた楽曲だ。だが、単なる“時代劇のテーマ曲”に留まらない。

小室が打ち出したのは、電子音で“日本の情緒”を描くという挑戦だった。シンセサイザーの音が大河のようにうねり、そこに荘厳なストリングスが重なる。打ち込みと生演奏の狭間を巧みに往復するような構成は、当時の邦楽界でも異色だった。のちに小室がプロデューサーとして築く“感情と構造のバランス”の原型ともいえる。

小室哲哉の次なるステージ

当時の小室哲哉は、TM NETWORKとしての活動を一区切りつけ、名義をTMNへ移行しようとしていた過渡期にあった。グループとしての実験性を突き詰める一方で、ソロとしての作品にも新しい表現を模索していた時期である。

この『天と地と〜HEAVEN AND EARTH〜』は、そんな“転換点”に生まれた1曲だ。デジタル機材を駆使しながらも、音の奥には明確な“人間の情感”が息づいている。旋律は壮麗でありながら、どこか孤高。リズムの隙間や音の余白に、彼特有の“都会的な孤独”が漂う。

「誰かに届ける」というより、「世界そのものに鳴り響く」音楽。その感覚が、この曲には強く刻まれている。映画の世界と完全にシンクロするように、音は“視覚”を補う存在として機能した。戦国の激しさと静謐、光と影。

そのすべてをシンセの層で描ききったこのサウンドスケープは、当時の日本映画音楽の概念をも更新した。

音が語り、映像が呼吸した

小室哲哉と角川映画といえば、1988年公開の映画『ぼくらの七日間戦争』を忘れてはならないだろう。この作品で小室は劇伴を手掛け、TM NETWORKとして主題歌『SEVEN DAYS WAR』も提供した。ストーリーの高揚や沈黙に寄り添うように音を配置し、「映像と音の呼応」を早くも体現していた。

一方その同じ年、TM NETWORKとして発表したアルバム『CAROL〜A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991〜』では、“音楽そのものが物語を語る”という試みを見せた。同アルバムを受けてのツアーでは、ミュージカルスタイルを取り入れたライブを行っている。

そして、それらの延長線上に生まれたのが、1990年の『天と地と〜HEAVEN AND EARTH〜』である。戦国の時代を舞台にした映画で、小室ならではの解釈で生み出されるサウンドスケープは、小室が“映像音楽家”として新たな地平へと到達した瞬間だった。

音が物語を導き、映像がその呼吸に応える――そこには、のちの彼のプロデュースワークにも通じる構成と感情の美学がすでに宿っていた。

“時代を越える静寂”としての存在

90年代に入ると、小室哲哉は日本の音楽シーンを席巻するプロデューサーとなる。『天と地と〜HEAVEN AND EARTH〜』を聴くと、その“原点”がここにあることを実感する。

メロディは叙情的で、アレンジは緻密。全体を包む空気は穏やかでありながら、確かな力を持っている。静けさの中にも情熱を包括できる、小室哲哉という音楽家の圧倒的な才能を感じさせる。

この作品が今聴いても古びないのは、デジタルでもアナログでもなく、“心の奥の音”として響くからだろう。

時代を超えて、音で語る“天と地”。そこに込められた祈りは、今も静かに鳴り続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。