1. トップ
  2. ファッション
  3. チカキサダ、バレエの葛藤をなぞり新たな強さへ【2026年春夏 東京コレクション】

チカキサダ、バレエの葛藤をなぞり新たな強さへ【2026年春夏 東京コレクション】

  • 2025.9.6

バレエダンサーの幾左田千佳が率いるチカ キサダCHIKA KISADA)。彼女はこれまでも、ヘアメイクやモデルを含むスタッフ全員を「自身のバレエカンパニーの一員」と語り、クリエイターと親密にひとつのショーを作り上げてきた。今季の会場に選ばれたのは代官山のギャラリースペース。観客との距離を縮め、より親密な表現を目指したという。ショーが始まる前からチェロの生演奏が鳴り響き、コンクリートの空間中央には黒い台が無造作に置かれ、その周囲を蛍光灯が囲んでいた。

プレスリリースによれば、今季のテーマは「Trace」。輪郭をなぞるようにして“理想の身体の形”を探り出し、その内側に潜む矛盾や葛藤までも浮び上がらせることを試みたという。そこには、姿勢や骨格、呼吸といった身体性そのものを、ボディーファンデーションという形で可視化しようという強い意志が感じられた。

コレクション全体を支配していたのは、これまでのパニエやクリノリンのイメージとは一線を画すダークなトーン。チュールを用いず、ボリュームの操作で遊ぶ姿勢が際立つ。パニエの代わりにストライプで構築されたスカートなど、新しいフォルムが目を引いた。一方で、サテン素材のミュールには猫のチャームが揺れ、ダークな空気のなかにも幾左田らしい愛らしさがほんのりと息づいていた。

なかでも印象的だったのは、Tシャツニットを組み合わせたようなドレス。胸もとには「OPERA HOUSE」のロゴ、そしてその下にはスローガンが並ぶ。「Why be racist, sexist, homophobic, or transphobic when you could just be quiet?(黙っていればいいのに、どうして人種差別や性差別、同性愛嫌悪やトランスジェンダー嫌悪を口にしてしまうのだろう?)」。ヴィンテージショップで見つけたというそのフレーズは、彼女自身にとっても響く言葉だった。クラシカルな舞台芸術を示唆する言葉と現代社会への問いかけを重ね合わせることで、ファッションを通じて社会に視線を向ける姿勢がにじんでいた。

全体を通して、コレクションはバレエの華やかさから距離を取り、ダークで内省的な世界を描き出した。舞台に立つまで試練と向き合い続けるダンサーのように、強さを求めてもがき続ける姿がそこに重なる。バレエの世界が必ずしも光だけで語られるものではなく、葛藤や緊張が常に寄り添うものであること。その現実を正面から見据えた2026年春夏のショーは、チカキサダの芯にある誠実さとエネルギーを鮮やかに映し出していた。

Photos: Courtesy of Chika Kisada

READ MORE

元記事で読む
の記事をもっとみる