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新築用の土地を購入も「家が建たない」30代夫婦を襲った“隣人の大誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.10.26
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「まさか、塀が原因で家が建てられなくなるなんて思いもしませんでした。」

そう語るのは、Fさん(30代・夫婦+子ども1人)。念願のマイホームを建てるため、郊外の住宅地に土地を購入しました。
ハウスメーカーとの契約も済み、あとは確認申請を出して着工するだけ――。
順調に進むはずの家づくりが、思わぬ形で止まってしまったのです。

「ブロック塀が“違法”だった」

敷地の境界には、古びたブロック塀が並んでいました。高さは約1.6メートル。
見た目からして、控え壁(支えの壁)が設けられていません。
建築士が現地を確認すると、「この塀は建築基準法に適合していないため、撤去する必要があります」と指摘を受けました。
建築基準法では、高さ1.2メートルを超えるブロック塀には一定間隔で「控え壁」を設けなければならないと定められています。
これは、地震などで倒壊して人命を奪う事故を防ぐための安全基準です。
Fさんは「危ないなら撤去して構いません」と了承し、設計も“塀を撤去する前提”で進んでいました。

しかし問題は、そのブロック塀が「隣人との共有物」だったことです。

「壊さないでください」隣人の一言で、計画が完全に止まった

「うちは壊したくありません。この塀は昔からあるし、すぐ壊す必要ないでしょ。」

隣人は安全性よりも、「今まで問題がなかったのに、なぜ壊す必要があるのか」と納得せず、話し合いは平行線をたどりました。
建築士からは「共有塀の撤去には双方の同意が必要です」と説明され、Fさんは手詰まりに。
役所に相談しても「敷地内に違法なブロック塀がある状態では確認申請を出しても許可は下りません」と回答があり、工事は進められなくなってしまいました。

「土地も買って、ローンも始まっているのに、何もできません。まさか隣人の同意がなければ家が建てられないなんて……。」

一級建築士が見る原因――“共有塀のリスク”

ブロック塀のトラブルは、実は住宅トラブルの中でも非常に多い問題です。
特に、境界線上に設けられた塀は、民法上「共有物」と見なされるケースが多く、撤去・改修には原則として全員の同意が必要です(民法第251条)。
「危険だから」「古いから」といっても、片側の判断だけで撤去すると「所有権の侵害」にあたる可能性があるため、慎重な対応が求められます。
さらにやっかいなのは、古い塀の多くが昭和の時代に作られたものです。
当時は、今のように法令順守やコンプライアンス意識が十分に浸透しておらず、控え壁のない塀や鉄筋の入っていないブロック塀が多く見られました。

「土地さえあれば家は建つと思っていた」

「土地を買えば、あとは家を建てるだけだと思っていました。まさか“塀”が壁になるとは……。」

Fさんの土地は違法な塀に囲まれた“建てられない土地”となってしまいました。

「家づくりが夢だったのに、まさか家が建たないとは思いませんでした。境界ブロックなんてただの仕切りと思っていたけれど、それが家づくりの命取りになるなんて。」

現在も隣人との話し合いは続いており、弁護士を通して解決を模索しているものの、関係は悪化。精神的な負担も大きいといいます。

購入前に必ずチェックすべきポイント

一級建築士の立場から見ると、ブロック塀は見た目以上に「法的責任」を伴います。
高さや構造に問題があれば、建築確認の段階で是正を求められますし、事故が起きた場合は所有者に賠償責任が及ぶこともあります。特に共有塀は“自分のものでも他人のものでもある”という最も厄介な存在です。
撤去には全員の合意が必要ですが、費用負担や境界の取り扱いで揉めるケースが多く、調整がつかないまま建築計画が止まってしまう例は少なくありません。

そのため、土地を購入する際には次の確認が欠かせません。

  • 塀の高さが1.2m以下かどうか(1.2m超える場合控え壁があるか)
  • 控え壁や鉄筋補強が入っているか
  • 塀が自分の土地内か、境界線上(共有)か

 “塀ひとつ”で夢が止まる

Fさんの事例は、「土地を買えば家は建てられる」という思い込みに警鐘を鳴らしています。
建築の世界では、建物だけでなく“敷地の安全性””も確認対象です。
どんなに強い家を計画していても、ブロック塀が法に適合していなければ、着工すらできません。
家を建てる前に見るべきは、間取り図よりも「土地の境界」。
そこに、思いもよらぬ“見えない壁”が潜んでいるかもしれません。

“塀のせいで家が建てられない”という現実は、決して他人事ではありません。

マイホームづくりを始める前に、まずは土地の境界とその安全性を、冷静に見極めることが何より大切なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。