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原作の続きを描かず“映画版の10年後”を描いた人気作 令和の若者にこそ届いてほしい“もう一つの物語”

  • 2025.9.22
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『ちはやふる-めぐり-』最終話 (C)末次由紀・講談社/NTV

9月10日。連続ドラマ『ちはやふる-めぐり-』が最終回を迎えた。
本作は、競技かるたに青春を燃やす若者たちの姿を描いた青春ドラマ。
梅園高校の2年生・藍沢めぐる(當真あみ)は、放課後は塾とアルバイトを過ごす日々で、隙間時間にはスマホアプリで投資をするタイパ重視の今時の高校生。

青春を贅沢品だと考えるめぐるは、FIRE(若いうちに資産形成した後、早期退職して不労所得で自由な生活を確保するライフスタイル)を目標に日々を過ごす堅実な考えの持ち主だったが、幽霊部員として所属していた競技かるた部から呼び出され、人数合わせで大会に参加したことをきっかけに、彼女の青春は大きく変わっていく。

※以下本文には放送内容が含まれます

原作漫画ではなく映画版の続編となったドラマ版『ちはやふる』

原作は末次由紀の人気漫画『ちはやふる』。
2007年から2022年まで連載された本作は全50巻で完結しており、現在は続編となる『ちはやふる plus きみがため』を連載している。通常ならこちらを映像化しそうだが、原作漫画の続編ではなく、広瀬すず主演で映像化された映画版『ちはやふる』シリーズの10年後を描いた物語だというのが本作のユニークなところだ。

映画で監督・脚本を担当した小泉徳宏は、今回のドラマではショーランナー(製作総指揮者)を担当しており、映画で主人公の綾瀬千早を演じた広瀬すずを筆頭とする出演者が成長した姿で登場し、映画と同じくPerfumeが主題歌を担当している。
もちろん見せ場となる競技かるた対決の場面も映画の演出を引き継いでおり、かなり映画版を踏襲した続編となっている。
だが、映画版とドラマ版では根底にある価値観が全く異なる。 映画版『ちはやふる』が正面から競技かるたの楽しさを描いた部活モノの王道で、千早の明るく前向きで行動力のある正統派ヒロインとしての華やかさが映画の魅力となっていた。
対してドラマ版の主人公・めぐるは、千早とは真逆の性格で、競技かるたの面白さに惹かれながらも、中々、部活に入ろうとしない。 映画から10年後の変化はそのまま、平成と令和の違いであり、コロナ禍を間に挟んだことによる若者の価値観の変化だと言えるだろう。

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『ちはやふる-めぐり-』最終話 (C)末次由紀・講談社/NTV

何より続編として上手いと感じたのが、めぐるを競技かるたの世界に導き、青春の喜びを教える教師が、映画版『ちはやふる』で上白石萌音が演じた大江奏だということ。
千早に強引に誘われる形で競技かるた部に入部した奏は、呉服屋の娘で古典が大好きな女子高生だった。そのため、競技かるたの激しい世界にはじめは困惑するものの、千早たちと切磋琢磨する中で成長していった。
千早が太陽なら奏は月のような存在で、性格も控えめでおっとりとしている。 だが、そんな彼女だからこそ、青春の第一歩が踏み出せずにいためぐるの気持ちを理解し、深く寄り添うことができたのだろう。

序盤は競技かるた部に入ろうとしないめぐるの姿にヤキモキするが、打ち込めるものを見つけて青春の第一歩に立つこと自体に躊躇してしまうめぐるの葛藤を丁寧に描いたことは本作の独自性となっており、青春から疎外された若者たちの苦悩を描いた独自の青春ドラマに仕上がっていた。

青春が贅沢品となった令和の若者たちのための青春ドラマ

梅園高校の競技かるた部に集うメンバーは、不調に苦しむアマチュアボクサーで、怪我が治るまで反射神経を鍛えたいという理由で入部した白野風希(齋藤潤)、子どもの頃から野球一筋だったが、ある理由で野球部を辞めることになった女子生徒の村田千江莉(嵐莉菜)、そして両親が一流のかるたプレイヤーで、競技かるたの実力はあるのだが、試合になると原因不明の眩暈がして実力を発揮できない奥山春馬(高村佳偉人)といった、困難を抱えた生徒ばかり。

部員の多くが何らかの挫折を経験している『ちはやふる-めぐり-』を観ていると、若者にとって青春を楽しむことのハードルが、とても高くなっているのだと感じる。

それがもっとも強く表れているのが、青春を贅沢品だと考えているめぐるの、全てを諦めているかのような、消去法で人生を考える振る舞いだ。だが、そんな彼女も初めから諦めていたわけではなく、二つの挫折を経験していた。

一つは中学受験の失敗だが、受験の失敗以上に、母親の塔子(内田有紀)が父親の進(要潤)に、めぐるの中学受験に費やしたお金と時間が無駄になってしまったと話しているのを偶然、聞いてしまったことが大きかった。
二人の話を聞いためぐるは、委縮した考え方をするようになってしまい、タイパの悪いことは避けて堅実に過ごしていたのだが、実は両親のためにFIREを目指していたことが、次第に明らかとなる。 めぐるを委縮した性格にしてしまったのは自分だと気づいた塔子が反省し、めぐるの部活動を認める場面は、感動的なシーンとなっている。
二人の母娘関係はとても印象的で、現代の若い女の子にとって母親の存在が大きく、母親の承認を得て初めて青春のスタートラインに立てるのだということが、とてもよく理解できる。

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『ちはやふる-めぐり-』最終話 (C)末次由紀・講談社/NTV

その後、母親の許可を得ためぐるは、競技かるた部の活動に邁進していくのだが、そんな彼女の前にライバルとして立ちはだかるのが、幼少期からの幼馴染で現在は端沢高校の競技かるた部に所属する月浦凪(原菜乃華)だ。

なんでもできる凪と幼少期から比較され続けてきためぐるは、凪に対して強い劣等感を抱いており、これまで深い挫折感を味わってきた。
そんな凪の在籍する端沢高校は『ちはやふる』の主人公・綾瀬千早が通っていた高校で、競技かるた部の顧問も千早が担当している。
凪のビジュアルやしゃべり方は若い頃の千早にそっくりで、演じる原菜乃華は当時の広瀬すずに寄せて演じている。
その意味でめぐるが戦うのは、映画版『ちはやふる』が体現する、素直に青春を楽しむことができた人たちのキラキラとした世界そのものだと言える。

そんな千早の後継者といえる凪と端沢高校に、めぐると梅園高校がどう戦いを挑むのか? というのが終盤の見どころだ。
青春が贅沢品となった令和の『ちはやふる-めぐり-』は、キラキラとした青春を生きた平成の『ちはやふる』にどう立ち向かったのか?

是非、その目で見届けてほしい。


日本テレビ系 水曜ドラマ『ちはやふる-めぐり-』毎週水曜よる10時

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。