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学校「指導の一環だった」教師が原因で不登校に…どこまでが違法?→慰謝料が認められる“条件”とは【法律のプロが解説】

  • 2025.8.27
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

教師から生徒へ度を超えた厳しい指導や暴言が繰り返されるケースがあります。指導と称しながら実態は人格を傷つける行為となり、不登校やうつ症状、さらには「指導死」と呼ばれる悲劇につながることさえあります。

では、法的に「正当な指導」と「違法なパワハラ指導」を分ける境界線はどこにあるのでしょうか。また、学校や教育委員会が「知らなかった」「指導の一環だった」と責任を否定した場合、保護者はどのように動けばいいのでしょうか。弁護士の解説をもとに、具体的な対応方法を整理します。

どこからが“指導”で、どこからが“パワハラ”? 法律が見る境界線

実は、法的に「正当な指導」と「違法なパワハラ指導」の間で、「ここからがパワハラ」といった明確な線引きは存在しません。

裁判所は、

  • 指導が行われた状況
  • 必要性や内容
  • 子どもの年齢や心身の状態
  • 発言の継続時間や頻度
  • 指導の目的

といった複数の要素を総合的に考慮して判断します。

つまり、同じ言葉でも「正当な注意」と評価される場合もあれば、「違法なパワハラ」とされる場合もあるということです。大切なのは、子どもの成長や安全に資する行為だったのか、それとも過度に精神的苦痛を与える行為だったのかという点です。

録音・日記・証言…子どもを守るために“証拠化”が不可欠

子どもが「先生からひどいことを言われた」と訴えた場合、保護者はどう動くべきでしょうか。

弁護士によれば、証拠の確保が最優先です。

  • 録音・録画:ICレコーダーやスマホでの録音は、発言を直接立証できる強力な証拠です。可能であれば映像も残せれば、状況の緊迫度や指導の態様がより具体的に伝わります。
  • 日記:子ども自身が「先生から暴言をはかれた」と抽象的に書くのではなく、「〇月〇日、〇〇先生に『お前は役立たずだ』と言われた」などと具体的な言葉を記録することが有効です。
  • 第三者の証言:同じ場にいた生徒や保護者の証言も力になります。ただし、協力する側に精神的負担がかかる点には配慮が必要です。

ハラスメントによる損害賠償請求は証拠を集めにくい分野ですが、小さな記録を積み重ねることが勝敗を左右します。

学校や教育委員会が動かないとき…訴訟で責任を追及できる

「指導の一環だった」「教師に悪意はなかった」――学校や教育委員会は正しいと思ってやっていることが多く、問題を矮小化し真摯に対応しないケースも少なくありません。

弁護士は「そのまま話し合いを続けても徒労感が募るばかり」と指摘します。

まともに取り合ってもらえない場合には、訴訟を起こして損害賠償請求を検討すべきです。訴訟という形で第三者の裁判所に判断を委ねることで、ハラスメント行為の有無がはっきりと認定されます。

訴える相手は誰? 公立と私立で異なる“責任の所在”

では実際に訴える場合、相手方は誰になるのでしょうか。

  • 公立学校の場合:教師個人の責任を問うことはできず、市区町村や都道府県といった地方自治体を相手にします。
  • 私立学校の場合:学校法人を相手にするのが基本ですが、ケースによっては教師個人の責任を追及できる場合もあります。

請求できる損害賠償の内容は、主に治療費と慰謝料です。暴言による被害の場合、高額の慰謝料が認められることは少なく、数十万円規模が上限となるケースが多いといわれています。ただし、暴言が多数回・長期間に及んでいれば、より高額になる可能性もあります。

精神的苦痛はどう認定される? 裁判所が重視するポイント

「精神的苦痛」を数字で換算するのは簡単ではありません。人によって受ける傷の深さが異なり、数字に置き換えることが難しいからです。

そこで裁判所は、

  • ハラスメントの内容・程度
  • 継続期間
  • 心身に症状が出ているかどうか(診断書の有無)

といった要素を重視します。パワハラが長期間続き、内容が悪質であれば「精神的苦痛も大きい」と認定されます。また、診断書があれば精神的損害の存在を裏付ける強い証拠となります。

ただし、発言内容が比較的軽微なのに心身の症状だけが重い場合などには、因果関係が否定されることもあります。PTSDとの関係が認められるには高いハードルがあるのが実情です。

まとめ

教師による暴言や過度な指導は、子どもの心を深く傷つけ、不登校や心身の不調につながる深刻な問題です。学校や教育委員会が「指導の一環」と片づけようとしても、証拠を積み上げることで違法なパワハラ行為であると立証できる可能性があります。

保護者としては、録音・日記・証言といった小さな記録を積み重ね、子どもの訴えを「事実」として残していくことが大切です。そして、学校が誠実に対応しない場合には、訴訟を通じて責任を追及する道も開かれています。

「昔は当たり前だった」という言葉では、子どもの心を守ることはできません。時代が変わった今、教育現場に求められているのは“指導の名を借りた暴言”をなくし、真に子どもの成長を支える環境を整えることなのです。


監修者名:鬼沢健士 弁護士

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茨城県取手市でじょうばん法律事務所所属。
できる限り着手金無料で、労働問題(不当解雇、未払残業代等)や詐欺被害救済に積極的に取り組んでいる。