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日本の国宝に“落書き”も…観光客「知らなかった」→弁護士「賠償は困難」なぜ泣き寝入り?法律の『落とし穴』

  • 2025.8.28
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出典元;photoAC(画像はイメージです)

「母国では問題なかった」「日本のルールを知らなかった」と弁解する声も聞かれますが、果たしてそれは通用するのでしょうか? 今回は、外国人観光客による文化財への落書き行為について、弁護士が法的責任や実際の対応について解説します。

文化財や建物への落書き…どんな罪に問われる可能性がある?

文化財や建物への落書きは、複数の罪に問われる可能性があります。

  • 器物損壊罪(刑法261条):3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金・科料
  • 建造物損壊罪(刑法260条):5年以下の拘禁刑
  • 文化財保護法違反:重要文化財や史跡・名勝・天然記念物への落書きは、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
    ※文化財保護法は「所有者自身の破壊行為」でも処罰対象
  • 軽犯罪法違反:拘留または科料
  • 迷惑防止条例違反:自治体ごとに定めがある場合

対象物が文化財かどうかによって刑罰の重さは異なりますが、いずれにしても「落書き=犯罪」であることは明白です。

外国人が行った場合、「日本の法律を知らなかった」では許される?

答えはNOです。

刑法38条3項には「法律を知らなかったとしても、罪を犯す意思がなかったとすることはできない」と規定されています。判例も違法性の認識は犯罪成立の要件ではないとしています。

つまり、「知らなかった」「悪気はなかった」という主張は、裁判ではほとんど考慮されません。

外国人観光客であっても日本国内にいる限り、日本の法律が等しく適用されます。

加害者が帰国してしまったら?

日本の捜査権・裁判権が及ぶのは日本国内のみです。そのため、加害者が母国に帰ってしまうと、捜査が難しくなります。

ただし、

  • 犯罪人引き渡し条約(現在はアメリカ・韓国と締結)
  • 国際刑事警察機構(ICPO)との連携
  • 代理処罰(日本政府が相手国に処罰を要請し、現地法で裁く仕組み)

といった手段を通じて、国外逃亡後でも処罰できる可能性はあります。

賠償金を請求できる?

理論的には可能ですが、実際には困難です。

日本で勝訴判決を得ても、加害者に日本国内の資産がなければ強制執行はできません。

母国の財産に対して強制執行する場合も、日本の判決をそのまま使えるわけではなく、現地での追加手続きが必要です。結果として、費用や手間の割に回収できないことも多いのが実情です。

再発防止のためにできることは?

管理者側

  • パトロール強化
  • 注意書きを英語をはじめ多言語で掲示
  • 入管当局と連携し、前科のある外国人観光客の入国制限を強化

一般観光客側

  • 問題行為を見かけたら、管理者や警察へ通報
  • 外国人観光客にマナーを教える、注意する
  • SNSなどに広がるフェイクニュースを見つけたら、削除や修正を促す

観光地の価値を守るには、行政・管理者・観光客が一体となって対策する必要があります。

まとめ

寺社や文化財への落書きは、器物損壊罪や文化財保護法違反などの犯罪行為に該当します。
例え海外在住者であったとしても、「日本の法律を知らなかった」では通用せず、外国人観光客にも日本の法律が適用されます。

  • 帰国後でも、条約や代理処罰を通じて処罰が可能な場合がある
  • 損害賠償の回収は困難で、現実には泣き寝入りになるケースも多い
  • 防止のためには多言語での注意喚起や通報体制の整備、観光客自身のマナー意識向上が欠かせない

文化財は一度傷つけられると修復に多大な労力と費用がかかります。観光客も管理者も「知らなかった」では済まされないことを理解し、日本の文化を守るために一人ひとりが責任ある行動を取ることが求められています。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

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神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。