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「2億円超の賠償金が命じられた」学校側の“たった1つの判断ミス”が招いた不慮の事故…【法律のプロが解説】

  • 2025.8.25
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

連日の猛暑で、部活動中に生徒が熱中症で倒れる事故が相次いでいます。「昔はこれくらいの暑さで練習するのが普通だった」といった精神論が語られることもありますが、今は社会全体が“子どもの安全を最優先に守るべき”という考え方に変化しています。もしも学校側の対応が不十分で事故が発生した場合、法的責任はどう問われるのでしょうか。

今回は、学校が負う「安全配慮義務」とは何か、責任が認められる具体的な基準、そして万が一事故が起きたときに保護者が取り得る法的手段について、弁護士の解説を交えてご紹介します。

炎天下での練習は危険行為? 学校が問われる『安全配慮義務』

弁護士によれば、部活動中に生徒が熱中症になった場合、学校側は損害賠償責任を負う可能性があります。

ただし、公立学校では顧問の教師個人が直接責任を負うことは難しく、市区町村や都道府県といった地方自治体が被告となります。一方、私立学校では学校法人に加えて、場合によっては顧問教師個人の責任も追及される可能性があります。

ここで問題となるのが「安全配慮義務」です。

これは、生徒が学校生活を安全に送れるように配慮する法的な義務のこと。具体的には、炎天下での無理な練習を避けたり、適切な休憩や水分補給を確保したりすることが求められます。つまり、教師や学校が「子どもを危険な状況に置かないようにする責任」が明確に存在しているのです。

気温・湿度・体調不良のサイン…“止めなかった”責任は重い

では、実際にどんな状況なら学校の責任が認められるのでしょうか。

判断のポイントは、大きく分けて「予見可能性」と「結果回避可能性」の二つです。

例えば、その日の気温や湿度が非常に高く、熱中症リスクを示すWBGT(熱中症予防運動指針)が危険レベルに達していたとします。

この場合、事故を予見できたと判断されやすくなります。さらに、生徒が「気分が悪い」と訴えていたのに練習を続けさせたようなケースでは、事故を回避できたはずだと評価されるでしょう。

つまり「危険を予見できたのに、止めるべき時に止めなかった」という事実が、学校側の過失を裏付ける根拠になるのです。

証拠はここまで必要! 保護者が集めるべきデータと記録

もし実際に熱中症事故が発生し、学校の責任を問いたい場合、保護者には証拠の収集が欠かせません。

まず重要なのは当日の気象データです。気温や湿度、日射の強さといった情報はインターネットから簡単に取得でき、リスクが高い環境だったことを示す有力な証拠になります。

次に、他の生徒や保護者の証言。これは「練習が強行された」「水分補給が十分に取れなかった」など、学校側の対応を裏付けるものとして重要です。

さらに、診断書は必須。熱中症の症状や治療の必要性を医学的に裏付けるものだからです。加えて、事故前日の体調や生活状況(例えば試験後で睡眠不足だったなど)も資料として意味を持つことがあります。

損害賠償は億単位に? 過去判例が示す厳しい現実

裁判で学校の責任が認められた場合、保護者はどのような損害賠償を請求できるのでしょうか。

弁護士によれば、まず治療費や慰謝料が基本となります。

さらに、後遺障害が残った場合や死亡事故に至った場合には、将来得られたはずの収入を補償する逸失利益も請求可能です。加えて、交通費や診断書取得費用、弁護士費用の一部も含まれる場合があります。

過去の判例では、被害者が若年であることから損害額が高額化する傾向があり、2億円を超える賠償が命じられたケースも存在します。

具体的な金額は症状や後遺障害の有無によって大きく異なるため「相場」があるわけではありませんが、深刻な事故ほど高額の賠償が認められる傾向にあります。

『昔は大丈夫だった』では済まされない時代に

部活動は心身の成長や仲間との絆を育む大切な時間です。しかし、それは子どもの安全が前提にあってこそ成り立つもの。

近年の酷暑は従来の常識を大きく超えており、もはや「昔は平気だった」という考えは通用しません。

学校側は法的にも「生徒の命を守る責任」を負っています。万が一その義務を怠れば、多額の損害賠償責任を負うだけでなく、学校や教師への社会的な信頼も大きく失墜します。

まとめ

炎天下の部活動で生徒を危険にさらすことは、単なる「不注意」では済まされず、法的責任が問われる重大な問題です。

学校が負う安全配慮義務は、教師や生徒の努力以前に絶対に守られるべき基盤です。

保護者としては、もし事故が起きた場合に備え、証拠を集めて学校の対応を検証する姿勢が重要です。そして学校側は「昔の常識」にとらわれず、最新のガイドラインや科学的データをもとに部活動を運営していく必要があります。


監修者名:鬼沢健士 弁護士

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茨城県取手市でじょうばん法律事務所所属。
できる限り着手金無料で、労働問題(不当解雇、未払残業代等)や詐欺被害救済に積極的に取り組んでいる。