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36年前、売上60万枚超→社会現象化した“企業戦士の賛歌” バブル期を奮い立たせた“異例のヒットCMソング”

  • 2025.9.1

「36年前、あなたは“24時間タタカエマスカ”と歌っていた?」

バブルの熱気が街を覆い、終電後も煌々と明かりが消えなかった1989年の秋。スーツ姿のサラリーマンたちが居酒屋やタクシーの中で、ふと口にしていたフレーズがあった。

日本中に流れたその歌声は、忙しくも誇りを持って働く時代の空気を象徴していた。

牛若丸三郎太『勇気のしるし〜リゲインのテーマ〜』(作詞:黒田秀樹・作曲:近藤達郎)——1989年11月22日発売。

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1991年、結婚発表会見での時任三郎(牛若丸三郎太) (C)SANKEI

CMの一節が国民歌に 広告から飛び出した応援歌

この曲を歌う「牛若丸三郎太」とは、俳優の時任三郎が演じたキャラクター。三共(現・第一三共ヘルスケア)の栄養ドリンク「リゲイン」のCMソングとして制作され、フルバージョンがCDシングル化された。

作詞を手がけたのは、CMディレクターでもあった黒田秀樹。制作現場のリアリティから生まれたコピーライクな言葉は、広告と音楽の境界を軽やかに飛び越えて時代を突き刺した。

そして作曲は近藤達郎。ホーンとストリングスが力強く絡み合い、前に突き進むようなアレンジは、当時のサラリーマン像を“ヒーロー化”するかのように力強い。

時代を突き刺した一言

「24時間タタカエマスカ?」という印象的なフレーズは、1989年の第6回新語・流行語大賞で流行語部門・銅賞を受賞。ちなみに金賞は「セクシャル・ハラスメント」であり、働き方や社会意識が急速に揺れ動いていた時代性を物語っている。

CMのキャッチコピーがそのまま社会現象になり、音楽チャートをも駆け上がる――まさに異例のヒットのかたちだった。

60万枚を突破した“広告発ヒット”の衝撃

シングルは累計で60万枚を超えるセールスを記録。発売直後だけでなく、年明けからさらに売上を伸ばした点も特徴的だ。

背景には年末年始の働き盛り需要、そしてバブル期の「企業戦士」イメージの拡張があった。テレビや街頭で繰り返し流れたこの曲は、CMソングの枠を超えて“時代の応援歌”として親しまれていった

同じ1989年にはサントリーフーズ「鉄骨飲料」のCMもスタートし、こちらも翌年にCD化されヒットを記録している。

もちろん、CMジングルやキャラクターソングがCD化されてヒットした例はそれ以前から存在した。だが、社会人向け商品の広告コピーがそのまま楽曲の核となり、数十万枚規模で売れるケースは異例であり、バブル期の熱気とCD市場の拡大があったからこそ実現した現象だった。

CD市場が拡大していた時期だからこそ、『勇気のしるし』は“広告の歌”を超えて、社会現象にまで広がった――まさに時代を象徴する出来事だった。

“働くことが希望”だった時代、そして今

軽快で親しみやすい旋律に、戦う日常を明るく肯定するコピー。そこには「仕事こそ人生」という価値観が色濃くにじんでいる。

かつては「24時間戦えますか?」という問いに迷わずYESと応えることが美徳とされた。だが今では、それが過労やハラスメントにつながる危険な発想であることは明らかであり、同じ問いにNOと答えることこそが健全な社会の勇気になっている。

黄色と黒は勇気のしるし――そのフレーズが時代を超えて響くとき、そこには“働くことを誇る勇気”から“働きすぎを拒む勇気”へと価値観を映し替える、確かなメッセージも浮かび上がってくるのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。