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30年前、日本中が恋した“国民的恋愛映画”の主題歌 90年代青春を閉じ込めた“揺らぎのラブポップ”

  • 2025.8.9

1995年の夏。“ギャル”が時代を席巻し、プリクラやルーズソックスが女子高生の新たな“制服”となっていた時代。

そんな真っ只中に公開された1本の映画が、予想外の余韻を残した。

映画『花より男子』――1995年8月19日公開。

神尾葉子の大人気少女漫画の実写化であり、後に何度も映像化される伝説の“初代”だった。

そしてその主題歌が、映画公開と同日発売の主演・内田有紀が歌う『Baby’s Growing Up』(作詞・作曲:小室哲哉)。

これは、彼女にとって4枚目のシングル。女優としての主演映画、歌手としての表現、そして“世代の代弁者”としての存在感――それらが、ひとつの曲に結晶したような作品となった。

小室哲哉が描いた“まっすぐすぎる”不安と希望

『Baby’s Growing Up』は、元気で天真爛漫なイメージが強かった内田有紀にとって、ややトーンを落としたアプローチではあったが、“真逆”ではない。むしろそこには、1990年代小室サウンド特有の高揚感やエッジを保ちつつも、少しだけ“素肌感”をにじませたような、絶妙なポップスのバランスがあった。

作詞・作曲を手がけたのはもちろん小室哲哉。当時のプロデュース陣の中でも、“王道の小室サウンド”を感じさせながらも、この曲には内田有紀という存在に合わせた設計が施されているように聴こえる。

芯のあるメロディと、若さゆえの迷いが混ざったような詞の世界。それは「今の自分のままで、前に進んでいいのか?」という戸惑いと、それでも成長していくしかない10代の“進行形”を、軽やかに、そして真面目に描き出していた。

タイトルにある「Baby」は、守るべき存在というより、まだ何者にもなっていない自分自身へのエールのようにも聴こえる。

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1995年、大阪・梅田東映劇場で挨拶する内田有紀 (C)SANKEI

実写『花より男子』が残した、“リアルすぎる揺らぎ”

映画『花より男子』は、今となっては“伝説”だ。内田有紀が主演を務めたこの初代実写版では、道明寺司役に谷原章介、花沢類役に藤木直人――ともにこの作品が俳優デビューという、今から見ればとんでもないキャスティング。

だが、当時の空気感は、キラキラというよりももっと生々しかった。そのリアルさが、内田有紀の歌と絶妙に響き合っていた。

まさに“Baby’s Growing Up”というフレーズが、その映画の全体像すらも象徴していたのだ。

“あの頃の空気”を封じ込めたコーラスの声

この曲には、のちに歌手としてブレイクする華原朋美が、コーラスとして参加している。彼女は当時まだデビュー前だったが、小室サウンドの一部として、その存在感を密かに刻んでいた。

誰もがまだ“完成形”じゃなかった時代。

内田有紀も、谷原章介も、藤木直人も、華原朋美も。

“これからの人”たちが、交差し、走り出す直前の一瞬が、この作品とこの楽曲には、はっきりと残っている。

後から見れば奇跡のような構図だが、当時は誰も、それが“伝説”になるとは知らなかった。

“未完成”という最大の魅力

『Baby’s Growing Up』は、セールス的には前作『Only You』の勢いには届かなかった。だがこの楽曲が放った“静かな強さ”は、数字では語れない余韻として、じわじわと人の心に浸透していった。

それは、「洗練」や「技巧」ではなく、“そのときにしか出せない揺らぎ”を、正面から歌にしたからだ。

あれから30年。内田有紀は、女優として成熟し続けながら、今も現役で第一線にいる。だが、彼女の「歌」の歴史において、この1曲が特別であることは、決して色あせない。

なぜなら、『Baby’s Growing Up』は、あの夏、まだ“なりかけ”だった全員のための応援歌だったからだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。