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25年前、日本中の心を揺さぶった“光と陰の二重構造ポップ” 国民的ロックバンドが残した“特別な1曲”

  • 2025.8.9

「2000年の夏、耳に残っていたのはどんな音だった?」

ミレニアムの幕開けに、日本中が新しい時代への期待に沸いていた。音楽シーンでは、CDシングルのセールスがまだ大きな力を持ち、テレビやラジオから流れる一曲が、その年の空気を塗り替えることも珍しくなかった。

だが、その華やかな表層の裏で、90年代を駆け抜けた多くのバンドが新しい形を模索し始めていた。音楽の潮目が変わる中で、自分たちの立ち位置を問い直すアーティストが少なくなかったのだ。

そんな転換期に、THE YELLOW MONKEYが放ったシングルが『パール』(作詞・作曲:吉井和哉)である。

「パール」に込められた涙の正体

2000年7月12日にTHE YELLOW MONKEYの22枚目のシングルとしてリリースされた『パール』。

一見すると、きらめく宝石を思わせるタイトルだが、この“パール”が示すのは真珠ではない。歌詞をたどれば、そこに浮かび上がるのは――悔しさと切なさが結晶になった、ひと粒の涙だ。

その涙の行き先は、バンドにとって特別な存在だった人物――かつてプロモーション担当として数々の成功を共に築き、代表曲『JAM』の大ヒットを陰で支えた中原繁への想いから生まれたものだとされる。

2000年の春、中原は突然この世を去った。あまりにも早すぎる別れだった。

当時は、THE YELLOW MONKEYが解散を真剣に検討していた時期とも重なっていた。そこには、どうしようもない喪失感と、残された者として未来を選び取る覚悟が入り混じっていたのかもしれない。

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2001年、東京ドームで開催されたTHE YELLOW MONKEY活動休止コンサートの様子 (C)SANKEI

明るさの中に潜む陰り

音だけを聴けば、『パール』は跳ねるビートとキャッチーなギターリフが心地よいパワーポップだ。

Aメロからサビへ駆け上がるスピード感、耳に残るメロディライン――その表層は実に爽快で、夏の青空にも似合う。

だが、歌の奥には切ない影が差し込んでいる。軽快さの中に、胸の奥を少し締めつけるような感触が残るのは、歌詞の端々に漂う“語られざる物語”のせいだろう。

これはTHE YELLOW MONKEYが得意としてきた手法でもある。華やかなロックサウンドに、聴き手の心をざわつかせる情感を織り込むことで、何度も聴き返したくなる奥行きを生み出す。

『パール』の場合、その感情の源泉は現実の出来事と深く結びついており、明るさと哀しみが同居する二重構造が際立っている。

イエモンの一区切りを象徴する曲

2000年当時のTHE YELLOW MONKEYは、90年代後半に国民的ロックバンドとしての地位を確立した後、新たな表現の形を探っていた。

『パール』は、そうした時期に生まれた“原点回帰と進化の融合”とも言える作品だ。

初期の勢いを思わせるシンプルな構成に、経験を重ねたバンドならではの緻密なアレンジが重なる。演奏の一体感はさらに研ぎ澄まされ、吉井のボーカルは軽やかさの中に力強さを秘めている。

まるで「ここからまた走り出す」と宣言するかのように響いたが、現実はそう単純ではなかった。

『パール』のリリースからわずか数カ月後、バンドは活動休止に入る。そのため、この曲はTHE YELLOW MONKEYの一区切りを象徴する曲のひとつとしても印象に残るナンバーだ。

ファンにとっての“特別な歌”

『パール』は、ただのヒットソングという枠を超え、ファンにとって特別な物語を宿した曲だ。活動休止後に発表されたメンバー選曲のベスト盤『MOTHER OF ALL THE BEST』(2004年)や、ファン投票で選ばれたベスト盤『イエモン-FAN'S BEST SELECTION-』(2013年)にも収録されたことが、その証でもある。

では、なぜこの曲は四半世紀を経ても色あせず、愛され続けるのか。

理由はシンプルだが、奥深い。キャッチーなメロディや完成度の高さだけではない。音に刻まれた感情の温度が、聴くたびに静かに心を揺らすのだ。

そこには、音楽としての魅力と、人間が生きる中で避けられない喜びや喪失、そのすべてが交差する瞬間がある。『パール』は、その両方を抱きしめたまま、今も響き続けている。

2000年の空気とともに

あの年の夏、『パール』は多くの人の耳に届き、心のどこかに残った。

明るく弾むようなサウンドの向こうに、何かを抱えたまま走り続ける人間の姿が見える。

それは、時代が変わっても共感できる感覚だろう。夢を追いながらも、大切な人との別れや自分の進む道に迷う瞬間は、誰の人生にも訪れる。

25年経った今、『パール』は当時を知る世代にとっては青春の一部であり、後から聴いた人にとっては新鮮な発見を与える。

それこそが、時代や世代を越えて生き残る楽曲の条件なのかもしれない。

2000年の夏を閉じ込めた一粒の涙――それが『パール』だった。

煌びやかに光りながら、その内側に深い哀しみを秘めるこの曲は、今もなお、聴く者の心を静かに揺らし続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。