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かつて大谷翔平の打席で響いた“メッセージ” “歴史的MVP”の背後で流れた“正体不明アーティスト”のデビュー曲

  • 2026.3.5

2026年、再びWBCの熱狂が渦巻く今、日本中の注目の的である大谷翔平。彼が「世界のオオタニ」として神格化される直前、自らの哲学を証明するかのように打席へと向かう背中で鳴り響いていた一曲がある。
デジタルな静寂が世界を包み込み、誰もが「明日」という言葉を疑い始めていた2020年。その混沌とした空気の隙間を縫うように、一つの衝撃的なタイトルが音楽シーンに突き刺さった。

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2026年撮影、WBC2026 壮行試合 中日対侍ジャパン試合前、打撃練習に臨む大谷翔平(C)SANKEI

はてな『夢?』(読み:ゆめじゃない)(作詞:いしわたり淳治・作曲:はてな・編曲:HIDEYA KOJIMA)――2020年11月15日配信開始

視覚的には「?」という疑問符を提示しながら、耳に届くのは「夢じゃない」という強烈な否定と肯定。このパラドックスこそが、情報の洪水に溺れかけていた私たちの感性を、一瞬にして現実に引き戻すトリガーとなったのである。

「疑問符」を「確信」へと塗り替える、音の肉体性

2020年から2021年にかけての時代は、皮肉にもバーチャルな体験が加速し、手触りのある「現実」が希薄化した季節であった。その中で、はてなというアーティストが放った音像は、驚くほど生々しく、剥き出しのギターロックだった。

イントロが鳴り響いた瞬間、空間の温度が一段上がるような錯覚を覚える。緻密に計算された電子音のレイヤーに抗うように、無骨でエッジの効いたギターが空気を切り裂く。それは、洗練という名の「綺麗事」を拒絶し、泥臭くもがく人間の鼓動をそのまま音に変換したかのようであった。

この楽曲が持っていたのは、単なる高揚感ではない。目に見える景色が果たして真実なのか、それとも誰かが見せている幻覚なのか。その境界線で立ち尽くす者への、「ここがお前の生きる場所だ」という冷徹で慈悲深い宣言だったのである。

大谷翔平がこの曲に託した「真実」

この楽曲の運命を決定づけたのは、2021年、アメリカのスタジアムで新たに鳴り響き始めたあの瞬間だろう。世界が「夢のような活躍」と称賛し、現実離れした二刀流の輝きを注視する中で、大谷翔平はこの曲を自らの新たな登場曲に選んだ。

「“夢”じゃない 勝手に“夢”と周りは呼ぶけどそうじゃない」

スタジアムを揺らすこのフレーズは、歴史的なMVPシーズンを突き進んでいた大谷というアスリートが背負う孤独な闘いと、見事に共鳴していた。周囲が「不可能」や「夢物語」と決めつける境界線を、圧倒的な努力という「現実」で塗り替えてきた男。彼にとって、この曲は単なる音楽ではなく、自身の哲学を代弁するマニフェストだったのだ。その瞬間、楽曲は困難に立ち向かうすべての者の「生存証明」へと昇華された。

喉を震わせる「問い」の先にある、透明なパッション

ボーカル・はてなの歌声は、ハイトーンも流麗に響く。また、言葉の一つひとつを噛み締め、時に吐き捨てるように、時に祈るように紡がれるその声には、聴く者の胸の奥に直接突き刺さるような鋭さがあった。答えのない時代を生きる私たちが、心の奥底に隠し持っていた「本当の言葉」を代弁していた。

編曲を手掛けたHIDEYA KOJIMA氏による、ダイナミズム溢れる構成も圧巻である。感情のビルドアップを丁寧に積み上げ、一気に解放するその音のうねりは、テクノロジーの進化と引き換えに私たちが失いかけていた、直感的な熱量を呼び覚ます。

2026年、鳴り止まない「正夢」の余韻

リリースから5年以上が経過した現在、世界はさらに複雑さを増し、現実と仮想の境界はより一層曖昧になっている。しかし、今この『夢?』を聴き返すと、あの時感じた「生きているという実感」が少しも色褪せていないことに驚かされる。そこには、自分自身を信じることの不器用な美学が宿っている。
夢なのか、現実なのか。その問いを抱えながらも、ただ「やりたいことをやりたいだけ」と突き進むその姿勢こそが、いつの時代も停滞した空気を切り裂く光となる。
スタジアムに響いたあの約4分間の残響は、2026年の今を生きる私たちに、こう問いかけ続けている。「お前の現実は、どこにあるのか」と。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。