1. トップ
  2. 8年前、主人公に嫌悪感をもつ人が続出…?「胸糞悪すぎる」「生々しい」中毒性と共感をもたらした“不倫ドラマ”

8年前、主人公に嫌悪感をもつ人が続出…?「胸糞悪すぎる」「生々しい」中毒性と共感をもたらした“不倫ドラマ”

  • 2025.9.25

2017年にTBS系で連続ドラマ化された『あなたのことはそれほど』は、“二番目に好きな人”と結婚した主人公が、再会した“初恋の人”と不倫関係に陥り、嘘と自己正当化を重ねていくドラマだ。不倫劇の枠にとどまらず、優しさと支配の境界、運命という言い訳の甘美さを、日常のディテールと静かな不穏で描く心理サスペンスとなっている。一見、加害者にしか見えない主人公の奔放な行動が、もはや清々しさすら感じさせる奇妙さを残す。

SNSでは「胸糞悪すぎる」「マジ無理かも」という感想の一方で、「これは傑作」「面白すぎる」「生々しい」「めっちゃハマって何回も見てた」とその中毒性を認める声もあふれている。

視聴者に、嫌悪感とそれでも抗えない中毒性と共感をもたらす、このドラマの見どころを解説していく。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

不倫の先にある“現実”

undefined
波瑠 (C)SANKEI

主人公・渡辺美都(波瑠)は“二番目の幸せ”を選び、夫の渡辺涼太(東出昌大)と結婚するが、中学時代に好きになり、結婚後も忘れられなかった有島光軌(鈴木伸之)と偶然にも再会。その日のうちに一線を超えてしまう。以後、美都は密かに関係を続け、有島に妻(仲里依紗)と子がいる事実を知っても、罪悪感は薄い。家では、有島と会える日に上機嫌、予定が合わなければ不機嫌になり、夫婦の会話もどこか上の空だ。

不審を抱いた涼太は美都のスマホを確認し、有島の存在とやりとりを把握する。それでもすぐには問い詰めず、“いつも通り”を装って様子を見る。ここから、二組の夫婦は互いの「正しさ」を掲げ、無言の攻防へと入っていく。

無邪気さと毒が同居する主人公像

本作は、罪悪感とロマンで駆ける“悲恋”ではない。美都は自分の選択を「占い」や「運命」に委ね、都合のよい免罪符にしてしまう。夫が、家事も愛情表現も欠かさない良き夫であることを自覚しながら、不倫を重ねる。相手にリードされるまま関係を継続し、妻子ある有島との関係に未来がないとわかっていても、一時の快楽と幸福に浸り続けようとするのだ。

この“身勝手”さと、“夢見る無邪気さ”の同居こそ、主人公像の核だ。彼女の行為は肯定できないが、悪意だけでも説明できない。波瑠は、危うい透明感でその矛盾を体現し、視聴者の嫌悪と共感を同時に呼び起こす。

東出昌大が刻む「静かな圧」

全10話中第3話目で不倫に気づいた涼太は、怒号も詰問もせず、日常をなぞるように“静かな圧”をかけ続ける。美都の誕生日兼結婚記念日のディナーで初めて切り出すが、感情を爆発させるのではなく、「僕はまだ大丈夫だ」と告げ、有島の電話番号を自分のスマホに登録したと微笑む。以降も「いつも通り」を崩さず、わざとらしいほどの優しさや不気味な同調で、美都の逃げ場を狭めていく。翌日は、涼太は有島に寄せた服装で現れ、美都の「話し合おう」という求めを受け流す。

東出の、温和な笑顔とその大きな瞳に宿る狂気は必見で、彼の執着と愛の行方は終盤にかけてあらぬ方向へ過激化していく。やがて彼の行動が怪物的な執念を帯びるが、そこには彼の背景が影響し、哀れさも滲ませるのが本ドラマの見どころのひとつだ。

仲里依紗が体現する「冷静な恨み」

有島の妻・麗華は、浮気症の父と、それに苦しんだ母を見て育った背景を持つ。彼女は自分の脆さを自覚しつつ、控えめな物腰で他者と距離を取るタイプだ。だからこそ、夫の不倫を確信すると、感情に溺れず淡々と状況を詰めていく。彼女の“静かな火”は、直接的な暴発よりも恐ろしく、視線や間、家の静けさで圧を伝える。仲里依紗の演技は、被害者としての痛みと、正義感と冷徹さを同時に宿し、物語のもう一つの柱となっている。

善悪の境界に揺れる不倫ドラマ

『あなたのことはそれほど』は、不倫の善悪だけに回収されない。欲望に囚われる人間の愚かさ、脆さ、そして健気さを赤裸々に見つめる作品だ。スリルには中毒性がある一方で、「愛されたい」という本能が歪むときの危うさも浮かび上がる。見終えたとき、自分も無関係と言い切れない感覚が静かに残るだろう。 


ライター:山田あゆみ
Web媒体を中心に映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand