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パリで開催中のリック・オウエンス回顧展『Rick Owens, Temple Of Love』── 注目の展覧会の4つの見どころをレポート

  • 2025.7.16

1. クリエーションのルーツと歴史

リック・オウエンスは1961年カリフォルニア州生まれ。LAでパタンナーとしてキャリアを開始し、1992年に自身のブランドを立ち上げた。「当初はアーカイブを保管することなど考えたことがなかった」といい、本展では再利用素材を用い、ダークカラーで展開した初期の作品から最新コレクションまで約100以上のルックが並ぶが、友人やブランドの協力者などから借りたものも含まれるという。オウエンスの父親が敬愛したワーグナーのオペラの舞台装置をイメージした入り口すぐのスペースでは、ブランドの核をなす着想源と共に、さまざまな年代のルックを鑑賞することができる。ヨーゼフ・ボイスの作品が置かれたコーナーも。

中央の2つのケースにはオウエンスがずっと大好きなカバーだというイギー・ポップ、クラウス・ノミ、デヴィッド・ボウイのアルバムや、パリへ拠点を移す直前に発表した2002年春夏コレクションの招待状など、たくさんの資料が陳列されている。

また、オウエンスが2003〜2005年にアーティスティック・ディレクターを務めていたファーをメインとするフランスのブランド、レビオン(Revillon)のピースも展示されている。この就任と、イタリアでの生産を始めたのをきっかけに、彼はパリへと拠点を移したのだった。

2. 最愛の妻、ミシェル・ラミー

Photo_ HUN, LES DEUX CAFÉS UNDER CONSTRUCTION, LAS PALMAS, HOLLYWOOD 1995, MARIO DE LOPEZ
Photo: HUN, LES DEUX CAFÉS UNDER CONSTRUCTION, LAS PALMAS, HOLLYWOOD 1995, MARIO DE LOPEZ

本展の主役はもちろんオウエンスだが、妻であり、共同制作者でもあるミシェル・ラミーの存在にも光が当てられている。

1944年生まれのラミーは77年にLAに移住し、1981年自身のブランドをローンチ。1987年オウエンスがパタンナーとしてラミーのデザインスタジオに加入し、1990年、オウエンスが想いを伝えて正式に交際がスタートする。以降公私にわたってオウエンスに影響を与え続けている彼女の若かりし頃の写真が展示されている他、1994〜2003年までLAのスタジオにあった2人の寝室(ベッドはオウエンスがデザイン)とラミーのワードローブを再現したスペースも設けられている。

ラミーがリック・オウエンスの服を着用することで話題になったり、オウエンスに身体を鍛えることを勧めたり、ラミーが抽象的なフォルムのコム デ ギャルソンの服を着用するようになるとオウエンスの作風が変わるなど、とにかくラミーはオウエンスにとってなくてはならない存在。それが本展でもひしひしと伝わってくる。

3. 男性性の表現

ぜひ入り口で無料のパンフレットをもらって見落とす場所がないように図面を確認しながら進んでもらいたいのだが、館内の奥には「THE JOY OF DECADENCE」という部屋がある。ここでは、2002年に『i-D』マガジンで発表した自分自身とのスカトロジー的な行為を描くコラージュ写真や、それを元に06年にピッティ・ウオモで披露した自身が放尿する姿の彫像の噴水などを展示。

Photo_ RICK OWENS, SELF PORTRAIT, LAS PALMAS AVE, 2002
Photo: RICK OWENS, SELF PORTRAIT, LAS PALMAS AVE, 2002

また、2015-16年秋冬コレクションの「SPHINX」では、男性モデルの性器を露出させる服を発表している(上の写真の下・中央)。

ショッキングな表現の数々に驚かされるが、そこには男性性を美として自由に表現したいという思いがあるようだ。「私は毎日公園でクラシックな男性の裸体像を見かけます。それらは官能的であると同時に優雅で、そして自由であるように感じます。私はこうした美のイメージを使うことはできないのでしょうか?」とオウエンスは語っている。

4. 特別な展示方法

オウエンスが芸術監督として関わっている本展は、これまでにない展示方法も特徴だ。2003年にパリへ移住してからのピースが並ぶ「PARIS」というエリアには自然光が降り注ぐ。通常、日光から作品を守ることを使命としている美術館では前代未聞の取り組みでもある。オウエンスは劣化も創作プロセスの一部だと考えてこうした手法を取ったのだという。

そして、建物の外に出たからといってそのまま出口に向かってはならない。庭園にもオウエンスの世界観が広がっているからだ。

外壁にある彫刻はスパンコール刺繍の布で覆われ、パリのトゥルネル橋を見下ろす聖ジュヌヴィエーヴ像にオマージュを捧げたシルエットを描いている。

テラス
テラス

庭園にはオウエンスが愛するカリフォルニア原産のブドウのつるや植物が植えられ、東側のテラスには今回のために特別にデザインされたセメント彫刻30点が展示されている。

オウエンスは美術館の夏季限定(2025年10月まで)のテラスレストラン「Les Petites Mains」のアートディレクションにも携わっている。また、オリジナルのキャップやTシャツなどを手に入れることができるブックショップも要チェックだ。

ブックショップ
ブックショップ
Photo_ RIZZOLI - RICK OWENS TEMPLE OF LOVE BOOK COVER
Photo: RIZZOLI - RICK OWENS TEMPLE OF LOVE BOOK COVER

ミシェル・ラミーが表紙のカタログは写真集のような仕上がり。詳細な説明は館内でじっくり確認しておこう。なお、サウンドクラウドにオウエンスとキュレーターのAlexandre Samsonが英語とフランス語で解説する音源がアップされているので、そちらも参考になる。

30年以上にわたる活動を振り返ってわかるのは、揺るぎないスタイルとインディペンデントであることへの強い信念、独自のアイデア。そして、信頼できるパートナーが重要な役割を果たしているということだった。

リック・オウエンスの「信者」をはじめとするファッション好きだけではなく、オウエンスに大きな影響を与えているアンダーグラウンドカルチャーや現代アート、デカダン派、20世紀初頭の名作映画、ブルータリズム建築に関心を持っている人も楽しめるはず。ぜひパリに訪れた際には足を運んでみてほしい。

Rick Owens, Temple Of Love

会期/2025年6月28日(土)~2026年1月4日(日)

会場/ Musee de la Mode de la Ville de Paris(Musee Galliera), 10 Av. Pierre 1er de Serbie, 75116 Paris,France

http://www.rickowens.eu/

Photos: OWENSCORP

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