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そりゃ子どもが生まれないわけだ…「手当をもらえず、控除もない子育て罰」が15年近く続いた本当の理由

  • 2025.7.14

2015年まで100万人以上あった出生数はこの10年で急減、2024年は70万人割れに。青山学院大学法学部教授の木山泰嗣さんは「近ごろ少子化対策が重要視されるようになったが、2010年以降、子育て世代が税制上冷遇されてきたことがあまり報じられていない」という――。

※本稿は木山泰嗣『ゼロからわかる日本の所得税制』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

住宅街に佇む笑顔の家族
※写真はイメージです
150万円まで拡大された扶養控除に残る問題点

「扶養控除」ですが、問題も残されています。それは、旧民主党政権のときの平成22年(2010年)に導入された、「子ども手当」(現在の児童手当)の存在が、大きく「所得税制」をゆがめてきた事実です。

「扶養控除」も、憲法25条の「生存権」保障を「税制」で実現するための「生活費控除の原則」のあらわれでした。「最低生活費」は、所得者だけでなく、家族がいる場合、扶養する子どもなどの分もかかるからです。これに課税をしないことが「生存権」保障の実現になります。

それにもかかわらず、現在の「扶養控除」の制度には、子どもを育てる親であっても、子どもが高校生になるまで、「扶養控除が、全くない」という問題があります。

平成22年(2010年)改正までは、0歳から15歳の子を扶養する親には、「年少扶養控除」がありました。子ども1人あたり「38万円」が「理論所得」から「控除」される「所得控除」でした。

【図表1】出生数及び合計特殊出生率の年次推移(2024年まで)
出典=厚生労働省「令和6年(2024) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
民主党政権は「子ども手当」で扶養控除を相殺

しかし、「子ども手当の給付をスタートしたから、もういらないのでは?」となり、この「年少扶養控除」は、平成22年(2010年)改正で廃止されました。

「子ども手当」は、2010年(平成22年)4月から実施されました。

「子ども手当」は、従来の「児童手当」の対象や金額を拡大したものです。その対象者に「所得制限」をつけずに、0歳から15歳としました。

ところが、2012年(平成24年)3月には、「子ども手当」が廃止されます。結局、「所得制限」がつけられて、「児童手当」に戻されたのです。

全員への「子ども手当」の給付は、財源不足をもたらすことが、わかったからです。「子ども手当」廃止後の「新・児童手当」には、「所得制限」がつけられました。その結果、「所得制限」がつけられた親は、「児童手当」(旧・子ども手当)を1円ももらえなくなったのに、子ども1人あたり「38万円」の「年少扶養控除」は戻らないままにされました。

つまり、この一連の「子ども手当」騒動が、子どもを育てる「最低生活費」が、「所得税額の計算」の際に何も「控除」されず、手当ての支給もない子育て世帯をつくってしまったのです。なんとも、皮肉な話です。

「年少扶養控除」は15年間ずっと廃止されたまま

「児童手当」(旧・子ども手当)の「所得制限」が撤廃されたのは、つい最近の2024年(令和6年)10月分(支給は同年12月)からです。しかし、「年少扶養控除」は、ずっと廃止されたままです(いまもありません)。「年少扶養控除」が廃止された平成22年(2010年)改正から、じつに15年になります。

平成22年(2010年)の改正では、高校生年代の「扶養控除」の額も引き下げられていました。それまでは、高校生年代から大学年年代(16歳~22歳)の子を扶養する親族に、子1人あたり「63万円」の「特定扶養控除」が認められていました。しかし、平成22年(2010年)改正で、高校生年代(16歳~18歳)の「扶養控除」の額は、「38万円」に引き下げられたのです。

「特定扶養控除」は、教育費などの支出がかさむ世代(高校生年代から大学生年代)の「税負担の軽減」をするため、扶養控除の基本額である「38万円」に、「25万円」を上乗せしてきたものでした。合計して「63万円」です。このうち「上乗せ部分」(25万円)が、高校生年代について廃止され、「38万円」になったのです。理由は、公立高校の授業料無償化の実施でした。

当時の立法説明に掲載されていたのが、図表2です。

【図表2】】2010年(平成22年)改正時の扶養控除の見通しについての立法説明
出典=『ゼロからわかる日本の所得税制』
逆風にさらされ続けてきた子育て世代

ここで、「控除」の廃止や減額、「所得制限」の導入の歴史を、整理してみましょう。

子育てをする「現役世代」は、まず、平成22年(2010年)改正で、「年少扶養控除」(0歳~15歳)と、高校生年代(16歳~18歳)の「特定扶養控除」による上乗せ部分を奪われました(図表2の2つの矢印のなくなった部分です)。

その後、平成29年(2017年)改正では、「配偶者控除」に「所得制限」がつけられました。

さらに、平成30年(2018年)改正で、「基礎控除」にも「所得制限」がつきました。もっとも、「基礎控除」については、「所得制限」のラインが高めなので、「基礎控除」が制限された子育て世帯の数は、少ないものと思われます。

この15年の間に、これらの逆風にさらされ、子育てをしてきた世代がいます。

このような「税制改正」の影響を受けてきた現役世代は、いったいどのように感じてきたのでしょうか?

「もう1人子どもを産んだら、損をしてしまいそう」「子どもを育てるために、所得を増やす必要があるのに、所得制限かよ」「子どもがいるのに、単身の所得者と同じ課税をされるのか」「『年少扶養控除』があった時代がうらやましい」などと思ってきたかもしれません。

これは「世代間の公平」ということを考えたときにも、問題といえるでしょう。

過去には、「年少扶養控除」も「配偶者控除」も「基礎控除」も、所得にかかわらず全額認められてきた時代があったからです。それが国の財源を使う「給付」を拡大しようとしたがために、「生活費控除」に「制限」がつけられてしまったのです。

家族
※写真はイメージです
子育てをしているのに手当をもらえず、控除もない

こうしてみると、旧世代に比べ、「平成20年代以降に子育てをしてきた現役世代」は、所得税法のルール改正で、税制上かなり冷遇されてきた実情が浮かび上がります。

この点が指摘されることは、不思議なことに、ほとんどありません。

しかし、問題ではないでしょうか? 「法律」(所得税法のルール)で高所得者と扱われることになった親が、「税制」に不満を述べる機会は、ほとんどないと考えられるからです。

「なんで、うちは子育てをしているのに、手当をもらえず、『年少扶養控除』もないのだろう?」「なぜ、高校の授業料無償化の支援を受けられなかったのに、『特定扶養控除』がなかったのだろう?」という、疑問が消えなかったことでしょう。

この根本には、平成22年(2010年)改正で舵を取られた「控除から手当へ」という政策転換がありました。「手当」には財源が必要になるので、「増税」が必要になります。

その「増税」を「子育て世代」からも行い続けてきたわけです。いったいどのような発想から生まれた政策なのか、疑問がふくらみます。

「少子化対策」という言葉で見過ごされていること

「少子化対策」や「子育て支援」が、最近の政策のトレンドです。その言葉だけに着目すると、入ってくる内容は、聞こえもよいでしょう。

木山泰嗣『ゼロからわかる日本の所得税制』(光文社新書)
木山泰嗣『ゼロからわかる日本の所得税制』(光文社新書)

しかし、現実に子育てを「平成時代後半」からしてきた「現役世代」は、「自分で稼いだ『所得』は、自分の子育てに使いたい」と思ってきたはずです。それらを国に「所得税」として徴収され、それが他の子育て世代に分配されている。そういう印象を持ち、やるせない想いを胸に秘めてきたのではないかと思われます。

このような事態は、平成22年(2010年)以前の旧世代にはなかったことです。

これは、東京都で令和6年度(2024年度)から撤廃された「高校の授業料の実質無償化の所得制限」などでも同じです。

一転して2024年(令和6年)から、社会保障給付(子育て支援や学校教育の授業料支援)では、逆に「所得制限の撤廃」がトレンドになりつつあります。一方で、所得税法のルールにある「所得制限」は、撤廃されるきざしがありません。

いま思えば「聞こえがよい」だけの不適切な政策

この流れは、平成22年(2010年)の「年少扶養控除」の廃止から始まっていました。そして、そのスタートには、すぐに財源不足から「児童手当」に戻されることになった、「子ども手当」の創設にありました。

いま思えば、「聞こえがよい」だけの、不適切な政策だったと思います。特に、「税制」との関係でみたら、結果的には、0歳から15歳の子の親に認められていた「年少扶養控除」を廃止しただけの改正になってしまったのですから。

ここで時系列を順番に整理しておくと、図表3のようになります。

「少子化、少子化。それが問題だ」と、令和時代の日本は、このことばかりが嘆かれています。しかし、そもそも少子化を招くような「税制」を、この15年、日本の「所得税法」が採用してきたことは、ほとんど報じられていません。

【図表3】年少扶養控除の廃止から基礎控除の所得制限導入までの推移
出典=『ゼロからわかる日本の所得税制』

木山 泰嗣(きやま・ひろつぐ)
青山学院大学法学部教授
1974年、神奈川県横浜市生まれ。青山学院大学法学部教授(税法)、同大学大学院法学研究科ビジネス法務専攻主任。鳥飼総合法律事務所客員弁護士。2011年に『税務訴訟の法律実務』(弘文堂)で、第34回日税研究賞(奨励賞)受賞。主な著書に、『弁護士が教える分かりやすい「民法」の授業』、『弁護士が教える分かりやすい「所得税法」の授業』(いずれも光文社新書)など。

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