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5万円以下のランドセルはそもそも眼中にない…加熱する「ラン活」を支える"孫消費"の実態

  • 2025.7.9

いまのシニア層は何にお金を使っているのか。ハルメク 生きかた上手研究所の梅津順江所長は「LINEなどで孫と直接連絡を取り合えるようになり、孫と祖父母だけの時間や消費が生まれやすい環境になった」という――。

※本稿は、梅津順江『消費の主役は60代 シニア市場最前線』(同文舘出版)の一部を再編集したものです。

ランドセルを選ぶ子供
※写真はイメージです
60代女性のお金の使い道、第1位

「少子化社会で孫が減っているので、孫市場に期待できない」と諦めてはいけません。生きかた上手研究所の調査(※)によると、60代女性が年間に消費する金額順で1位は「孫に使う費用」で10万9813円でした。

全体のボリュームは少ないですが、孫と祖父母で営まれる「子抜き消費」、「週末消費(お疲れ回復&集いもてなし消費)」、「ラン活」に象徴される「余韻消費」など、新たな消費も誕生しています。

「お年玉・お盆玉」、「誕生日や入学・卒業祝い」などのイベントだけでなく、会うたびに「お小遣い」、「食事代」、「交通費」を祖父母が出すケースも少なくありません。遠方にいる祖父母は「季節のフルーツ」なども送っています。「習い事の月謝」、「本や教材」、「発表会」など、教育熱心な様子もうかがえました。

※2023年調査、該当者ベースで平均額を算出

「孫がいる人」自体は減っている

「お宮参り、お年玉、誕生日、東京への交通費」、「お年玉、誕生日、七五三、こどもの日、ひな祭り、会う時にいつも本や図鑑を渡す」、「誕生日、クリスマスのプレゼント、一緒に過ごす際の遊園地、交通費、食事代など。計20万円ほど」、「お年玉、誕生日プレゼント、節句飾り、食事代、産直店からの季節のフルーツや野菜、出産祝いなど」、「グランピングの費用、絵本」、「お年玉、誕生日プレゼント、果物、習い事の月謝、外食」……。

孫のために、こんなにもたくさんの場面で日常的にお金を使っていました。60代女性が記述した内容を読むと、年間約11万円を孫に消費している実情が納得できます。

生きかた上手研究所は、2023年3月17〜20日、55〜85歳の女性452人に「孫に関する意識と実態調査」を行ないました。この調査は、2018年にも実施したので、5年ぶりの調査ということになります。2018年は「孫あり」と回答した人は全体で62.7%、2023年は52.9%と、約10ポイント低下しています。

【図表1】孫がいる割合
出所=『消費の主役は60代 シニア市場最前線』(同文舘出版)

なお、60代は2018年が60.2%、2023年が52.8%でした。5年で少子化が進行したことがうかがえます。

「元気をもらえる」と9割以上が満足

当該女性は、孫との関係に93.3%が満足と回答。2018年調査でも9割超えでしたが、さらに満足度が高まっています。孫との接触でよいことは、「元気をもらえる」、「楽しい」、「孫の将来の楽しみが得られる」、「新しい刺激をもらえる」が上位にきています。

孫とどう関わりたいかに関しては、「LINEを通じて互いに影響し合いたい」、「遠方で直接会えないのでSNSやLINEを活用してコミュニケーションを取りたい」などデジタルに関する自由記述が見られました。コロナ禍を経て、孫との新しいつながり手段が追加されたというわけです。

「子抜き消費」とも言える孫と祖父母だけの時間や消費が生まれやすい環境になりました。子どもを介さなくても、孫と直接LINEなどで連絡を取り合えるようになったのです。

5年前の調査では、「両親の考えと本人の意思を尊重するために多少の距離が必要」、「子どもの子なので、祖母の自由にはならない」など、子世代へ遠慮しながら孫に接触する様子が色濃く見られました。

2023年でも子世代への遠慮の声はあるものの小勢となり、「デジタルコミュニケーション」によって、子や孫との程よい距離感を保ちやすくなっている様子が垣間見られています。

【図表2】「子抜き消費」の例
出所=『消費の主役は60代 シニア市場最前線』(同文舘出版)
「子抜き」で関係を深めるババと孫

子を介さずとも直接お迎えに行け、孫自慢や悩みを共有し合う「ババ友(婆友)」なる仲間もできています。「孫(たち)とババ(たち)」との交流が生まれ、共有する時間が増えます。自然と一緒に買い物や食事をする頻度も上がります。一緒に同じ「アニメ・漫画」を見たり、「ゲーム」をしたりする人もいました。そこには、子世代の影は見えません。まさに「子抜き消費」と言える状態ではないでしょうか。

この先も、リアルとデジタルを上手に使い分けながら、祖父母と孫世代との関係性は強まり、「子抜き消費」の額は上昇すると予測します。

孫の数自体は少なくなっているので、件数の増加は見込めません。よって市場の大きさを見る際には注意が必要ですが、1人あたりの孫にかける消費額は明らかに増えていくでしょう。

「代行業務」で大忙しな祖父母のホンネ

「子どもが巣立ち、自分や配偶者が退職すると“毎日が日曜日”となり、曜日感覚がなくなる」。ひと昔前はこんな笑い話がありました。

しかし、孫のいる(特に近居)祖父母は、そんな気楽なことは言っていられません。50代後半から60代にかけて、共働き子世代の代わりに「孫育て」がはじまります。

平日は子世代の代わりに、保育園の送り迎え、夕食の準備などに追われます。孫のベビーカーをひき、一緒に買い物に行くこともあります。平日は「親の代行業務」で忙しく、オンライン座談会では次のような本音があがりました。

「娘が妊娠後、家族揃って自分たちの家の近くに引っ越してきた。頼られて孫の様子を見られるのはうれしい反面、自分の時間がなくなるのではないかと心配」、「親が働いているので1日べったり一緒。かわいくても自分の体力がついていかない。正直しんどい。食費くらい入れてほしい」、「生活費として、月10万円を子から預かっている。孫の衛生面を考えて床の拭き掃除もしている。協力が当たり前という態度に、私は家政婦? とモヤモヤする時がある」などなど。

自分への「ご褒美消費」と「おもてなし消費」

では、週末はどうでしょうか。大きく2パターンありました。

1つは、「自分のために時間やお金を使う」週末の過ごし方です。

「土曜日は孫の面倒をみなくてよいので、自宅のたまった家事を片づける」、「体力を温存するため、ひたすら休む。エステや美容院に行くこともあり、自分を労わる」、「週末は自分へのご褒美にあてる。「UberEatsで、いーんじゃない?(夏木マリさん風に笑いながら)」など、「回復消費」、「ご褒美消費」に向かっていました。もう1パターンは、「子や孫と集い美食でおもてなし」です。

「週末は子や孫と3世代で集まるので、食事もいつもより豪華になる」、「お互いの中間地点で、家族で外食をすることが多い」、「娘も仕事に育児に大変だろうから週末はゆっくりしてほしい。実家に招いて、食事も奮発する。料理は日常だと面倒だけど、非日常だと頑張れる」など、「集い消費」、「おもてなし消費」が発生していました。

しかし2つ目のパターンでも、座談会では「孫は来てよし、帰ってよし」の意見に賛同が集まり、「そうそう!」と盛り上がりました。

そういえば、中高年の悲哀を笑いに変える毒舌漫談家の綾小路きみまろさんも、「孫が来てくれるとうれしい、帰ってくれるともっとうれしい」と言っています。

隠居生活どころか、フルタイムで稼働

このように、平日も週末も自分たち都合ではなく、孫の生活に合わせるようになっています。“毎日が日曜日”なんてことはなく、60代は常に暦を意識せざるを得ない状況です。

筆者も「隠居生活で悠々自適」という60代女性に、この10年会ったことがありません。彼女たちは引退できないどころか、めいっぱいフルタイムで稼働しているのです。さらに付け加えると、孫だけでなく親の介護がはじまり、ダブルのお世話をしている60代女性も珍しくありません。

このように当該世代は、週末を意識するようになっていますから、今後も新たな意味での「週末消費」が生じていくことでしょう。「ご褒美」「おもてなし」というONへ向かう文脈でも、「クタクタお疲れ回復」というOFFへ向かう文脈でも、チャリーンとお金が落ちる音が聞こえます。

「ランドセル商戦」は夏までに決着がつく

60代のあるシニア女性から「ラン活」という言葉を聞いた時、最初は何のことかわかりませんでした。「ラン活」は、小学校入学を控えた子や孫のランドセルを手に入れる活動を指します。

ランドセル
※写真はイメージです

小学校の入学式は4月が一般的ですが、ランドセルの購入時期は約1年前から情報収集がはじまるとのこと。ランドセルメーカー「セイバン」が2024年2月6〜15日、2171人に実施した「ランドセル選びに関する調査」によると、小学校入学の前年6月末までに約51%の家庭がランドセルを購入しました。人気のランドセルは、夏前に完売することもあるそうです。

インターネットの普及で、地方のランドセル工房を知ることできる、カラーバリエーションが豊富など、選択肢が広がっています。またメディアの影響で、年々購入が前倒しになっており、少子化でランドセルひとつにかける予算が上がっている現状があります。こうしたことが、近年の「ラン活過熱」の要因と考えられます。

先の60代シニア女性から、孫のラン活体験談を聞きました。正月の親戚の集まりで、当時幼稚園年中だった唯一の孫のランドセルについて息子の妻の両親が話したことがきっかけでした。その後、息子夫婦と両家の祖父母でランドセルに関する情報収集がスタートしたそうです。

高級品は10万円超、平均購入額は6万円

目星をつけたブランドの新作が発表されると、家族総出でランドセルの展示会に複数回足を運びました。孫は男の子ですが、赤系の色が好きでした。そのため黒や青系の色を選ばせるのに苦労したそうです。最終的には、一部に赤のステッチが入った黒色のランドセルに決まりました。

ランドセル商戦が早くからはじまるため、「人気商品が売り切れないか」、「色選びを孫に納得させることを急がなくては」と焦りの連続だったと振り返りました。この家族は、半年ほどランドセルのことにかなり注力していたことになります。集まった際には飲食の場も生じるでしょうし、時間も費やしたことでしょう。ランドセルそのものだけではない消費も起きています。

ランドセルの価格は3万円以下のお値打ちのものから、10万円を超える高級品までさまざまです。前述のセイバンの調査によると、購入金額の平均は6万463円で、最も多い価格帯は6万円以上7万円未満で、全体の約28%を占めています。

8万円弱でも「安かった」と満足気

一般社団法人日本鞄協会ランドセル工業会が1500人の家庭を対象に行なった調査(ランドセル購入に関する調査2025年)では、ランドセルは祖父母がプレゼントするのが一般的になっていることがうかがえます。ランドセル購入者は父方の親と母方の親がともに同率で27.2%です。そして、祖父母の合計で54.4%を占めています。

セイバンの別の調査では、「ランドセルを祖父母に購入してもらった経緯」を聞いていました。「祖父母から提案された」が74%、「自然な流れ」が16%、「父母から祖父母にお願い」が8%、「祖父母がサプライズで購入」が2%という結果です。祖父母側からのアクションが断トツに多いことがわかります。

先の60代女性は「5万円以下のランドセルは選択肢になかった」と言います。購入したのは8万円弱のものでしたが、息子の妻の両親と半分ずつ資金を出し合ったので約4万円を負担したそうです。購入したランドセルはメーカーの6年修理補償があるため、「安かった。修理中も代わりのランドセルが借りられる」と満足げに語っていました。

少なくとも小学校6年間は孫とつながれる

なぜ祖父母は孫の「ラン活」に情熱を注ぐのでしょうか。祖父母にとって「孫の入学」は一生に一度しかなく、思い出づくりにもなる一大イベントだからです。少なくとも6年間は自分が孫に買ったランドセルを孫の成長とともに見届けることができます。その後も、孫には「じぃじ・ばぁばから買ってもらった」というつながりの記憶がランドセルというシンボルと一緒に残り続けます。

「孫離れを意識するタイミング」という切ない事情についても紹介します。生きかた上手研究所が2018年7月、55〜84歳の女性311人を対象に「祖母と孫に関する実態調査」を行なった結果です。

「孫離れを意識するタイミングは、孫の年齢が5歳と11歳の時にある」ことがわかりました。「孫に会いたい」という思いをグラフにすると、孫が5歳と11歳の時の2回、大きな山があります。

【図表3】孫の年齢別 孫に会いたい意向度スコア
出所=『消費の主役は60代 シニア市場最前線』(同文舘出版)

しかし小学校と中学校の入学直前になると、祖母の思いは大きく下がっていました。

つい財布の紐が緩んでしまう理由

大きく下がる理由には、先に述べた「子ども(孫の親)世代への遠慮」、「自分の体力の心配」、「自分の時間が制限される」の他、「過干渉への自粛意識」、「孫の受験タイミング」、「孫のばぁば離れ」などがありました。

梅津順江『消費の主役は60代 シニア市場最前線』(同文舘出版)
梅津順江『消費の主役は60代 シニア市場最前線』(同文舘出版)

祖父母が孫との関係にひと区切りつける「孫離れ」の瞬間は必ず訪れますが、そのタイミングが小中学校に入学する直前なのです。

ラン活は、孫と距離を置く前に、孫とよい関係を築けた証しを残したいという心理の表われとも捉えられるでしょう。

単純に「孫によいランドセルを使ってほしい」と願うだけでなく、孫離れ直前の切ない思いがありそうです。ランドセルがそうした節目のシンボルであれば、よいものを選びたいと情熱を注ぐのは当然なのでしょう。ランドセルは、つながりを象徴する「余韻消費」と言えそうです。

梅津 順江(うめづ・ゆきえ)
ハルメク 生きかた上手研究所 所長
大学卒業後、ジュジュ化粧品株式会社(現・小林製薬株式会社)で商品開発やマーケティングを7年間、株式会社ジャパン・マーケティング・エージェンシーで定性調査のモデレーターや分析を14年間行なう。2016年、株式会社ハルメクに入社。年間約900人のシニアを対象にインタビューや取材、ワークショップを実施して、誌面づくり・商品開発・広告制作の糧になるインサイトをつかんでいる。また、時代や世代も捉えて、半歩先のシニアの未来を予測・創造している。日経クロストレンド「シニアの新常識」(2024年9月〜)などの連載を持ち、著著に『この1冊ですべてわかる 心理マーケティングの基本』(日本実業出版社)などがある。

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