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25年前、日本中に鳴り響いた“予測不能な新時代ポップ” 売上160万枚を超えた“和×洋の先鋭的グルーヴ”

  • 2025.7.30

「2000年の春、どんな音楽が流れていたか覚えてる?」

インターネットが家庭へと入り始め、携帯電話が“日常”の一部になっていった時代。人々は“次”を感じつつも、その正体が見えない不確かさに揺れていた。そんな空気を纏うミレニアムの時代に、予測不能な音が突然、上から降ってきた。

宇多田ヒカル『Wait&See ~リスク~』(作詞・作曲:宇多田ヒカル)――2000年4月19日リリース。

これは宇多田がJ-POPに届けた、ある種“未来”だった。

“リスクを取る”ことで生まれたポップの革新

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2004年 映画『CASSHERN』プレミア試写会に訪れた宇多田ヒカル (C)SANKEI

1998年に『Automatic』(作詞・作曲:宇多田ヒカル)でデビューした宇多田ヒカルは、瞬く間に音楽シーンを塗り替えた。

その後も勢いを増し続ける中、前作『Addicted To You』(作詞・作曲:宇多田ヒカル)でタッグを組んだ世界的音楽プロデューサー・ジャム&ルイスとのコラボを、さらに進化させて世に放ったのが5枚目のシングルとなる本作だった。

グラミー常連の世界的ヒットメーカーと、日本のティーンエイジャーが手を組む。そんな挑戦から生まれたのは、「売れる曲とはこうあるべき」という空気を軽やかに超えていくサウンドだった。

“海外っぽい”という単純な枠を越えた、“音そのものに引きずり込まれる感覚”に、多くのリスナーが翻弄された。

“和と洋のセンス”が共鳴した、心地よいグルーヴ

この楽曲の真骨頂は、そのビートにある。

重心の低いドラム、しなやかに跳ねるベースライン。ジャム&ルイスによるトラックは、まさに“海外の洗練”を体現したものだった。

そこに宇多田ヒカルの持つ、日本語のリズム感と独自のメロディセンスが混ざり合うことで、J-POPともR&Bとも言い切れない“新しい座標”が生まれていた。

曲の構成自体はシンプルだが、音の粒立ち、音色の選び方、ビートの組み方すべてにおいて緻密で、空間を切り取るような鮮明さがある。それでいて、どこか柔らかく、懐かしささえ感じさせる瞬間もある。

先鋭的なのに、決して聴き疲れしない。

それは、ジャンルや国境を越えた“感覚の交差点”にいる宇多田ヒカルだからこそ成し得た音だった。

印象的なMV、そして“DVDシングル”という試み

この曲を語る上で、MVの存在も外せない。

近未来都市をバイクで駆け抜ける宇多田。光とスピード、静と動の対比。そこに言葉を挟む余地はない。当時のMVとしては先鋭的で、“音楽ビデオ”の域を超えた映像作品だった。

ショートカットで軽やかに歌う宇多田の姿もさらに彼女の魅力を増すものになった。

このMVは、2000年6月にDVDシングルとしてもリリースされた。映像と楽曲が強く結びついて記憶されている人も少なくないだろう。それほどまでに、この作品は“音と映像が一体となった体験”として、当時のリスナーの心に深く浸透していた。

“未知”に飛び込む強さが、次の扉を開けた

『Wait&See ~リスク~』の魅力は、音や映像の完成度だけにあるのではない。

「既に成功しているからこそ、挑戦できた」ではなく、「成功していてもなお、変わろうとした」という姿勢にこそある。

同世代のアーティストが“キャッチーなヒット”を追う中で、宇多田ヒカルは“予測不可能”という選択をした。それが、J-POPの幅を一段広げる結果となった。

あれから25年。“待つこと”と“リスクを取ること”の意味

『Wait&See ~リスク~』は、結果として160万枚を超える大ヒットを記録した。

だが、この曲が残したものは、数字だけではない。

タイトルに込められていたのは、“立ち止まりながらも進む”という、時代への静かなメッセージだったのかもしれない。

「焦らなくていい。でも、立ち止まり続けるわけにもいかない」――そんな矛盾を抱えた言葉が、ミレニアム初期の空気を、的確にすくい取っていた。

リスクを恐れず、かといって無理に熱を込めることもなく。

少し距離を置いたような視線で、それでも確かに未来へ音を投げかけていた――

あの頃の宇多田ヒカルは、誰よりも“先の景色”を見ていたのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。