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25年前、日本中が海風に揺れた“真夏の怪物ソング” 80万枚超を売り上げた“むき出しの爆発サウンド”

  • 2025.7.30

2000年、“ミレニアム”という言葉に誰もが浮き足立っていた。デジタル化が進み、街は少し未来めいて、どこか非日常だった。

だが、そんな“未来感”とはまるで真逆を突き刺すように、ひたすら暑く、汗臭く、情熱的な一曲が、日本中に響き渡った。

サザンオールスターズ『HOTEL PACIFIC』(作詞・作曲:桑田佳祐)――2000年7月19日リリース。

それは、ラテンの熱と昭和の湿度とロックの爆発力をすべて飲み込んだ、真夏の怪物ソングだった。

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1980年の桑田佳祐 (C)SANKEI

サザンが“夏”を更新した、ミレニアムの衝撃

『HOTEL PACIFIC』は、サザンオールスターズにとって45枚目のシングル。最終的に80万枚を超えるセールスを記録した。

サザンといえば“夏”というイメージはすでに定着していたが、この曲はその文脈すら壊しにかかるような、派手で、濃くて、暴れるような一曲だった。

イントロから響くブラスの咆哮、跳ねるリズム、艶やかなボーカル。まるで海辺のどこかで灼熱のカーニバルが始まったようなサウンドが、2000年の日本列島を包み込んでいった。

モチーフは“茅ヶ崎に実在したホテル”

タイトルとなった「HOTEL PACIFIC」は、桑田の故郷である神奈川県茅ヶ崎市にかつて存在していた「パシフィックホテル茅ヶ崎」がモチーフ。

1965年に開業したこのホテルは、真っ白な円柱形の外観と先進的なデザインで注目され、当時の湘南カルチャーを象徴する高級リゾートホテルだった。

ドライブイン、プール、ボウリング場、ウインドサーフィンにジェットスキーと、さまざまな娯楽を併設したこのホテルは、まさに“海辺の夢”だったが、1988年に完全閉業。建物も1998年に取り壊された。

桑田佳祐は、このホテルのボウリング場で学生時代にアルバイトをしていたことがあり、自身にとっても特別な場所だった。

2000年には、その茅ヶ崎で開催された地元凱旋ライブ『茅ヶ崎ライブ』を盛り上げるために、この曲を制作。私的な記憶と土地の記憶、そしてサザンの“夏”が、ひとつに融合した。

ラテン×昭和歌謡×ロック――全部乗せの“暴力的完成度”

この曲が“怪物”と呼ばれる所以は、そのサウンド構築にもある。

大胆に取り入れたブラスサウンドに、昭和歌謡を思わせるメロディと、日本語の語感にこだわったリリックが乗る。そのうえで、サビではロックバンドとしての爆発力がむき出しになる。

「これは誰にも真似できない」

そう思わせる、“サザンにしかできない”という圧倒的オリジナリティが、この曲にはあった。

桑田佳祐のボーカルも、色気・毒気・情熱・哀愁をすべて詰め込んでいて、一曲で映画を一本観たかのような満足感すらある。

ミレニアムの“夏の記憶”を塗り替えた一曲

2000年のJ-POPシーンは、テクノロジーの進化とテレビ主導のメディア戦略がピークを迎えていた。そんな中で『HOTEL PACIFIC』は、“音楽そのものの力”でヒットを飛ばした。

それは、「バンドとしての衝動」がまだJ-POPの真ん中にあった証でもある。

真夏の夜に、屋外スピーカーから漏れるこの曲を聴いた記憶。

カーステレオでボリュームを上げて、海沿いの道を走った記憶。

CDショップに並んだジャケットに、思わず手を伸ばした記憶――

『HOTEL PACIFIC』は、あの年の“日本の夏そのもの”になっていた。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。