1. トップ
  2. 35年前、日本中の心に響いた“明るいのに切ない恋の歌” バブル終焉のドラマ界を揺るがす“始まりの1曲”

35年前、日本中の心に響いた“明るいのに切ない恋の歌” バブル終焉のドラマ界を揺るがす“始まりの1曲”

  • 2025.7.23

「35年前の今頃、どんな音楽が流れていたか覚えてる?」

1990年、日本の街にはまだバブルの余韻が残っていた。けれど、社会に出る一歩手前にいた若者たちは、浮かれた空気とは裏腹に、就職、恋愛、家族や将来への漠然とした不安を抱えていた。

そんな時代の空気のなかで、ひときわリアルに響いたラブソングがある。

DREAMS COME TRUE『笑顔の行方』(作詞:吉田美和・作曲:中村正人)ーー1990年2月10日リリース。

5枚目のシングルにして、ドラマ主題歌初挑戦、紅白初出場、そして中村正人が初めてシングル作曲を手がけた転機の1曲。ここから“ドリカム現象”が、静かに始まっていく。

undefined
(C)SANKEI

「ドラマにドリカム」ーーその最初の一歩

『笑顔の行方』は、TBS系ドラマ『卒業』の主題歌として書き下ろされた。主演は中山美穂と織田裕二。

ドラマは、短大卒業を控えた若者たちが、就職や恋愛に揺れながら、“何かを卒業していく”姿を描いた青春群像劇だ。その物語の余韻に寄り添うように流れたこの曲は、等身大の悩みを、等身大の言葉と音で描くというスタイルで、当時の視聴者やリスナーの心に強く残った。

そしてこれをきっかけに、DREAMS COME TRUEは以降、数々のドラマ主題歌を担当していくことになる。

『LOVE LOVE LOVE』『やさしいキスをして』(ともに作詞:吉田美和・作曲:中村正人)など、“ドラマにドリカムあり”という流れを決定づけた最初の1曲が、まさにこの『笑顔の行方』だった。

キャッチーで明るいのに、胸の奥がざわつく

この楽曲は、明るく軽快なリズムと、どこか憂いを帯びたメロディが特徴的だ。イントロから耳に残るキャッチーさがありながら、全体にはどこか切なさを忍ばせている。

この楽曲が描いているのは、「同じ笑顔はできなくなってきたかもしれない」という、恋の中にふと差し込んだ違和感。

決定的なすれ違いや別れではなく、それでもどこか噛み合わない空気を感じ取ってしまう、微妙な関係性のゆらぎが、言葉とサウンドの両方から伝わってくる。

特に注目すべきは、終盤の変化だ。「今ならもっと、素直に笑える」という一行をきっかけに、曲の雰囲気がふわっと柔らかくなる。感情の動きが自然に音へと移っていく構成に、静かな物語性が宿っている

『未来予想図II』と並べて提示された“リアル”と“理想”

シングルのB面には、2ndアルバム『LOVE GOES ON…』から『未来予想図II』がリカット収録されている。後にドリカムを象徴するラブソングとなるこの楽曲が添えられていたことは、いま振り返ると象徴的だ。

『笑顔の行方』で描かれたのは、すれ違い始めた恋の“リアル”。

『未来予想図II』で描かれたのは、長く続く愛の“理想”。

この1枚で、「DREAMS COME TRUEとはどういう音楽を鳴らす存在なのか」を、しっかりと提示していた。現実と理想、その両方を真正面から描けるアーティストは、当時のJ-POPシーンでも貴重だった。

“共感される音楽”の時代、その口火を切った1曲

この曲のヒットをきっかけに、DREAMS COME TRUEは1990年の『NHK紅白歌合戦』(NHK)で紅白初出場、番組の冒頭を飾る。単なる新人から、確かな存在感を持つアーティストへとステージを上げていく。

そしてこの『笑顔の行方』は、「ドリカムらしさの原石」が詰まった特別な1曲だ。心にずっと残る。感情を叫ばず、だけど確かに伝える。“共鳴する音楽”を届けたドリカムの原点が、ここにある。

『笑顔の行方』は、いま聴いても決して古びない。むしろ、年齢を重ねたからこそ見えてくるものがある。

すれ違いや迷い、言えなかった気持ち、あのときの未熟さーーそんな記憶が、この曲にそっと重なる。

「きっと言える、きっと届く」

あのときできなかったことも、きっと今ならできる。そんな自分自身への小さな希望を与えてくれる曲。それが、この『笑顔の行方』なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。