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「真骨頂のよう」「美しく不気味」思わず“震え上がる”快演… 2人の“凄まじい演技合戦”に引き込まれる新作映画

  • 2025.7.4

センセーショナルなタイトルと、予告編で観られる衝撃的な映像、そして綾野剛と柴咲コウの凄まじい演技合戦に引き込まれる新作映画『でっちあげ  ~殺人教師と呼ばれた男』。冒頭の約15分は、目を覆いたくなるような教師による小学生への虐めのシーンが映し出されるが、その後は実話を知らない観客にとっては、思いもよらない展開が待ち受けている。見たものをそのまま信じずに、しっかりと真実を知ることが大事だと教えてくれる本作で、渾身の演技を披露している綾野や柴咲らの熱演に注目しつつ、この映画の魅力を紐解いてみたい。 ※この記事にはネタバレが含まれています。

『でっちあげ  ~殺人教師と呼ばれた男』

20年前、日本で初めて教師による児童への虐めが認定された体罰事件。福田ますみのルポルタージュ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』を映画化。三池崇史が監督を務め、綾野剛、柴咲コウ、亀梨和也、木村文乃、光石研、北村一輝、小林薫ら豪華キャストで描く、日常の延長線にある極限状況。男は「殺人教師」か、それとも……。

小学校教諭・薮下誠一(綾野剛)は、保護者・氷室律子(柴咲コウ)に児童・氷室拓翔(三浦綺羅)への体罰で告発された。体罰とはものの言いようで、その内容は聞くに耐えない虐めだった。

これを嗅ぎつけた週刊春報の記者・鳴海三千彦(亀梨和也)が“実名報道”に踏み切る。過激な言葉で飾られた記事は、瞬く間に世の中を震撼させ、薮下はマスコミの標的となった。誹謗中傷、裏切り、停職、壊れていく日常。次から次へと底なしの絶望が薮下をすり潰していく。

一方、律子を擁護する声は多く、“550人もの大弁護団”が結成され、前代未聞の民事訴訟へと発展。誰もが律子側の勝利を切望し、確信していたのだが、法廷で薮下の口から語られたのは「すべて事実無根の"でっちあげ"」だという完全否認だった。

これは真実に基づく、真実を疑う物語。

出典:映画『でっちあげ  ~殺人教師と呼ばれた男』より

綾野剛と柴咲コウの高い演技力に震え上がる

前述の通り、冒頭で描かれる薮下の拓翔への“体罰”は、あまりにも残酷で、こんな教師が本当にいるのかと驚愕してしまう。綾野による“恐ろしい教師”の怪演は、高い演技力の賜物と言えるだろう。小さい子どもを相手に、次から次へと繰り出される乱暴な虐めに、もうやめてと叫び出しそうになるほどだった。SNSにも「綾野剛の真骨頂のような演技」という声が見られた。

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(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

ところが、福田氏による詳細なルポルタージュによると、実際には冤罪で、当該教師は体罰などしておらず、本作の劇中でも、それが明らかになっていく。さらに、拓翔の同級生への虐めも描出されるのだが、拓翔役の三浦はNHK大河ドラマ『光る君へ』などに出演する名子役で、映画の冒頭と、それ以降の演技の変化が見事だ。

律子の視点で描かれる薮下による拓翔への体罰の場面と、実際の出来事のシーンの落差があまりにも大きいのだが、氷室家での家庭訪問のひとこまも180度印象が異なっており、演じる綾野・柴咲・三浦の演技の幅の広さに大いに引き込まれる。特に柴咲は、子どもを心配する愛情深い母親の顔と、モンスターペアレントの形相の両方を表現していて、後者の鋭い目力には思わず震え上がってしまう。SNSにも「柴咲コウの美しく不気味な演技が秀逸」というコメントが上がっていた。

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(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

情報操作の恐ろしさを痛感

実際、この母親の話すことは嘘ばかりで、証拠は1つもなかったという。アメリカに住んでいたというのも虚言で、薮下は混乱するばかり。それなのに、鳴海による報道によって、薮下が完全なる悪者という認識となり、世間からは律子に同情が集まり、約550人もの弁護士による支援団が付いたというのだから、情報操作というものの恐ろしさを痛感する。週刊誌の見出しにすぐに踊らされず、真実を見極めなければならないと思った。

少し胡散臭い印象の鳴海を演じる亀梨の演技も、普段の好青年のイメージとは大きく異なっていて興味深い。鳴海には彼なりの正義があって、律子や拓翔を救いたいという想いで実名報道に踏み切ったのだとは思うが……。

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(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

薮下が八方塞がりとなった際、ただ1人、彼を信じて手を差し伸べ、弁護を引き受けてくれた湯上弁護士を小林薫が演じている。小林はNHK連続テレビ小説『虎に翼』でも法曹界の重鎮役で、裁判で名弁護をするシーンがあったが、『でっちあげ  ~殺人教師と呼ばれた男』での湯上の的確な弁護は非の打ち所がなく、いかに律子の言動が不可解かを暴き、薮下を救ってくれた。小林の説得力のある名演技によって、観ている側も救われる気持ちになる。

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(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

真実の行方は必見!

薮下の冤罪が晴れるまでには長い年月がかかり、彼はもちろん、彼の家族も針のむしろのような生活を送っていたのかと思うと胸が締め付けられる。本作を観た人からは「真実の行方に驚愕!」「本当に考えさせられる映画」といった感想がSNSに上がっている。

学校側が騒ぎを収めるために、とりあえず謝罪をしろと薮下に促したがために、「日本で初めて教師による児童への虐めが認定された体罰事件」として知られることとなってしまった。

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(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

130分にも及ぶ綾野の壮絶な熱演に引き込まれずにはいられない映画『でっちあげ  ~殺人教師と呼ばれた男』は、全国公開中だ。


映画『でっちあげ  ~殺人教師と呼ばれた男』2025年6月27日(金)より上映中

出演:綾野剛、柴咲コウ、亀梨和也、大倉孝二、小澤征悦、髙嶋政宏、迫田孝也、安藤玉恵、美村里江、峯村リエ、東野絢香、飯田基祐、三浦綺羅、木村文乃、光石研、北村一輝、小林薫
監督:三池崇史 脚本:森ハヤシ
原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
配給:東映
公式サイト:https://www.detchiagemovie.jp/
(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

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(C)2007 福田ますみ/新潮社 (C)2025「でっちあげ」製作委員会

ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP