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「マンガ大賞2025」受賞作 「子どもの頃の自分を励ますような気持ちで描いています」

  • 2025.6.20

今春「マンガ大賞2025」を受賞した、売野機子さんの最新作。日本人女性初の宇宙飛行士コマンダー(船長)を目指す少女・朝日田ありすと、共に夢を追いかける孤高の天少年・犬星類の成長物語だ。

キミがいればどこまでも行ける! 未来を切り開く子どもたち。

「当初は男の子と女の子が勉強しながら絆を育む、もう少しライトな作品を提案されていました。しかし第1話を完成させた時、大きな作品にできそうだから派手な目標を掲げてもいいと言っていただいたので、行き詰まっているありすの現状から勉強によって一番遠くに行けるのはどこだろうと考えて。地上と宇宙という物理的距離に加え、英語話者であることが絶対条件、さらには誰もが憧れる宇宙飛行士は、象徴的な目標として機能すると思ったのです」

ありすは容姿端麗・スポーツ万能で、学校でも一目置かれる存在だが、感情をうまく言葉で表せない。周囲と噛み合わない様子を見た犬星は、彼女がセミリンガルであると言い当てる。2言語を流暢に扱うバイリンガルに対し、セミリンガルはどちらの言語も中途半端になっている状態。バイリンガル教育に熱心だった両親の事故死が大きく影響していた。

「私も中3の子どもがいるのですが、周りを見渡して、いろんなポリシーや理想を掲げて育児をしている人の中でもバイリンガル教育はメジャーだったと思います。では自分もやってみようかな? と想像してみた時、私はシングルペアレントなので、もし親である私の身に何かあったら、特殊な育児や教育を受けた子どもは、その後どうなってしまうのだろうと思い、勇気が出せず踏みとどまりました。その経験が、発想のきっかけになったのかもしれません。学習面で困難を抱えた子どもは、学校や福祉などが手助けする必要があると思っていますが、もし不運にも見つけてもらえなかった場合でも、子どもの可能性はまだ潰れてなどいない、ということを描いています。作中でも“親ガチャ”という言葉が何度か出てくるのですが、ハズレと言えるような環境に置かれてしまったとしても、まだ何も終わっていない。大丈夫、あなたには自分の人生を自分で切り拓く力がある。そうやって、子どもの頃の自分を励ますような気持ちで描いています」

宇宙飛行士になるという、誰もがまともに取り合わないありすの夢を喜び、犬星は具体的な手立てを考えていく。ありすは学ぶ楽しさを知り、その成長が犬星を励ます。バディとして夢へと近づく様が小気味よい。

「ここ7~8年くらい、より広く手に取ってもらえるような、エンタメ性の高いマンガの企画を立てていたうちのひとつが日の目を見た形です。作画も作品ごとに模索していますが、自分が一番のびのびと描ける絵がこの作品には合っていると思い、考えすぎずリラックスして描いています。そうすると、最近『この作家さんの絵柄に似ているね』と読者さんに挙げていただく名前が、幼少期に好きだった作家さんばかりで。私の中に植えられた種が紆余曲折を経て、今、花開いてるのかなと思っています」

ありすの学びの喜びには、勉強が好きだったのに学校に行けなくなってしまった売野さんの心残りも込められているそう。宇宙を目指し走るふたりの背中を追いかけよう。

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