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食用油の「コレステロールゼロ」には意味がない…糖尿病専門医が解説「動脈硬化を招くコレステロールの特徴」

  • 2025.6.13

いつまでも健康で過ごすためには、どんなことに気を付けるといいのか。北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟さんは「21世紀以降、アメリカや日本の食事摂取基準では食事で摂取されるコレステロールの上限値は撤廃されている。古い健康情報を更新することが必要だ」という――。

※本稿は、山田悟『脂質起動』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

コロッケを揚げる様子
※写真はイメージです
「卵は1日1個まで」はもう古い

脂質をもっと摂りましょう、そう言うと、「コレステロールが心配だから」という声が聞こえてきます。

「コレステロールが高いと危険」「卵は1日1個まで」といった話を聞いたことがあるかもしれません。多くの方が、食べるコレステロールと血液中のコレステロールを区別せず、血液中のコレステロールのみならず、食べるコレステロールをも敵のように考えているようです。

しかし、これは古い情報に基づいた誤解なのです。

コレステロールは、私たちのからだに欠かせない大切な物質です。脂質(脂肪分)をしっかり摂っても、コレステロール値が問題になるほど上がることはありません。

むしろ、糖質を摂りすぎて脂質を控えすぎると、心臓病や脳卒中のリスクが高まる恐れがあります。

植物油の「コレステロールゼロ」は当然の話

「脂質」「コレステロール」「中性脂肪」――どの言葉も、似たような言葉のイメージがあり、いずれも「からだにとってよくないもの」という点で一致しているかもしれません。

まずは、よくゴッチャにされる「脂質」「コレステロール」「中性脂肪」の違いから、簡単に説明させてください。

脂質(脂肪分)は、食べ物や血液に含まれる脂肪分の総称です。バターやサラダ油、肉の脂身などが代表的な例です。

中性脂肪は、脂質の一種で、私たちが摂取する脂質の大部分を占めています。また、体内の脂肪の約90%が中性脂肪の形で蓄えられています。中性脂肪は主にエネルギー源として利用されます。

コレステロールも脂質の一種ですが、中性脂肪とは全く違う構造をしています。

コレステロールは卵や肉などの動物性食品に含まれていますが、植物油には含まれていません。食用油の商品パッケージに「コレステロールゼロ!」と謳ってあるものがありますが、あれはもともと当たり前のこと。植物油にはコレステロールはそもそも存在していないのです。

この「コレステロール」は、実はとても重要な役割を果たしていて、それが、「細胞膜の材料になる」「ホルモンの原料になる」「胆汁酸の原料になり消化吸収を助ける」「ビタミンDの材料になる」の4つです。

コレステロールは私たちの健康を維持するために欠かせない物質なのです。

体内生産分が8割、食事からは2割程度

コレステロールは、脂質のひとつで、卵や肉に含まれると言いました。

昔は、「卵を食べるとコレステロールが上がる」と言われ、「卵は1日1個まで」などと言われた時代がありましたが、これは正確ではありません。その理由は、体内のコレステロールの調整システムにあります。

コレステロールは、食事から摂取する以上に肝臓で作られています。驚くことに、体内のコレステロールの70~80%は体内で合成され、食事から摂るのは20~30%程度にすぎません。

日本人の成人は平均で1日約340mgのコレステロールを食事から摂取していますが、体重60kgの人なら、体内で720~780mgものコレステロールを自分で作っていることになります。

からだには賢い調整機能(フィードバック機能と言います)があり、食事からコレステロールを多く摂ると、体内での生産量を減らし、反対に食事からの摂取量が少ないと、体内での生産量を増やすようになります。

この調整のおかげで、食事でコレステロールを摂っても、血中のコレステロール値は(特殊体質の方を除けば)直接的には上がりません。

これは糖質とは大きく異なります。糖質を食べれば必ず血糖値は上がりますが、コレステロールはそのような単純な関係ではありません。

また、1日あたり1個の卵摂取の増加と循環器疾患(心臓病と脳卒中)の発症率には有意な関連が見受けられないという報告もあります(※1)。

※1. BMJ.2020;368:m513

21世紀になり、多くの研究論文が証明するようになり、アメリカの食事摂取基準でも日本の食事摂取基準でも、食べるほうのコレステロールの上限値は撤廃されています(※2)。

※2. JAMA 2015;313(24):2421-2422

そもそも「悪玉」と「善玉」の違いはなに?

さて、同じコレステロールでも、「総コレステロール」とか「LDLコレステロール」とか「HDLコレステロール」といった言葉を健康診断の際にご覧になることでしょう。

「LDLコレステロール」は、健康が気になる方にとっては「悪玉コレステロール」という別名のほうが馴染みがあるかもしれません。よく耳にするLDLコレステロールとは一体何者なのか、少し説明したいと思います。

悪玉(LDL)コレステロールの正体を知るために、体内でコレステロールがどのように運ばれて利用されているかを知っておきましょう。

コレステロールには、食べることで摂取されるコレステロールと、体内で作られるコレステロールという2つのルートがあります。

食べるコレステロールは、中性脂肪とともに小腸から吸収されます。脂質は水(血液)には溶けませんから、コレステロールと中性脂肪という脂質は血液中をそのまま流れることはできません。

コレステロールと中性脂肪は“船”のようなものに乗せられて、血液中を流れます。この船のことをカイロミクロンと呼びます。

カイロミクロンが血液中を巡回する中で、中性脂肪は分解されて、エネルギー源として全身に供給されます。“船”の積荷の多くはコレステロールとなり、肝臓へ送られ、取り込まれます。これが食べるコレステロールのルートです。

血中コレステロールのイメージ
※画像はイメージです
「善玉」は全身をめぐって余った“船”

次に、体内でつくられるほうのコレステロールのルートを見てみます。

山田悟『脂質起動』(サンマーク出版)
山田悟『脂質起動』(サンマーク出版)

肝臓では、必要に応じてコレステロールと中性脂肪が作られています。あるいは、カイロミクロンによって供給されたコレステロールも利用して、新たに“船”のようなものを合成します。この船のことをVLDLと言います。VLDLはカイロミクロンと同様にコレステロールと中性脂肪を乗せて、血液中を流れます。このうち中性脂肪が分解されてエネルギー源となり、積荷の多くがコレステロールになった“船”がLDL。積み荷であるコレステロールがLDLコレステロールです。

肝臓から出発し、VLDLやLDLの船に乗せられたコレステロールは、全身で細胞膜やホルモンの原料として取り込まれますが、多少の売れ残りが生じます。この売れ残りを回収して肝臓へ戻す役割を担う“船”が、「HDL」で、HDLの中のコレステロールがHDLコレステロール。いわゆる善玉コレステロールです。

LDLもHDLも、中身は同じコレステロール

LDLもHDLも積荷の中身は同じコレステロールで、これらを合算したのが「総コレステロール」です。コレステロールに悪玉と善玉がいるわけではなく、コレステロールを肝臓から全身に運ぶ船の積み荷(売れ残りで動脈硬化が生じる)を悪玉と呼び、全身から肝臓にコレステロールを回収している船の積み荷を善玉と呼んでいるにすぎません。

そして、肝臓から運ばれるLDLコレステロールが多かったり、回収役のHDLコレステロールが少なかったりすると動脈硬化症が進展します。また、一部には、両コレステロールのバランスが動脈硬化症の発症・進展に重要だという考え方もあります。

いずれにせよ、動脈の血管内に余分なコレステロールが蓄積することが動脈硬化症の発端であり、コレステロールが酸化していると血管内に蓄積しやすくなり(動脈硬化が生じやすくなり)、それを放置しておくと血管が詰まって心臓病や脳卒中が起こりやすくなるのです。

山田 悟(やまだ・さとる)
北里研究所病院 糖尿病センター長
1970年生まれ。94年慶応義塾大学医学部卒業。2013年(一社)食・楽・健康協会を設立。ロカボ=ゆるやかな糖質制限を提唱し、企業に対して啓発活動を行うなど、日本人の健康増進のために日夜活動中。著書に『糖質制限の真実』『カロリー制限の大罪』(いずれも幻冬舎新書)などがある。

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