「高額紙幣しかださない」「怒りっぽくなった」→『加齢による変化』と『認知症』、医師が教える“見極めるポイント”とは？【医師が解説

年齢を重ねると、誰でも「物忘れ」が増えてきますよね。でも、単なる加齢による物忘れと病気の認知症による物忘れは、実は大きく違うんです。もし「もしかして認知症かも？」と不安になったら、どう見分ければいいのでしょう？

この記事では、加齢と認知症で異なる物忘れのポイントを医師の視点からわかりやすく解説します。正しい知識を持つことは、不安を減らし、早期の対応につながる大切な一歩です。

物忘れ＝認知症は誤ったイメージ

物忘れは誰にでも起こる自然な現象ですが、認知症と混同されやすいのが現実です。認知症は進行性の脳の病気で、記憶だけでなく判断力や日常生活に必要な能力を徐々に奪っていきます。一方で、加齢による物忘れは、病的な進行を伴う認知症とは異なり、一般的には命に直結するケースは少ないとされています。

「たまに物忘れがあるだけなら大丈夫」と軽視するのは危険ですが、過剰に心配しすぎるのもストレスになります。だからこそ、両者の違いを正確に知り、見極めることが重要なのです。

加齢の物忘れと認知症、ここが違う！

加齢による物忘れは「一時的に思い出せないだけ」で、そのうち思い出すことが多いのが特徴です。例えば、「さっき言われたことを忘れたけど、あとで思い出した」といった具合です。また、物忘れの内容も細かい部分であり、日常生活に大きな支障はありません。

一方、認知症の物忘れは「根本的な記憶障害」で、重要な出来事や約束を完全に忘れてしまいます。出来事や約束の存在自体を忘れてしまうので、「物忘れが増えた」という自覚すらないことも多いのが特徴です。忘れていることを指摘されると立腹したり、何度も同じことを繰り返し話したり、家族や知人の名前がわからなくなることも。さらに、料理や買い物などの日常的な動作に明らかな支障が出ることもあります。

日本では65歳以上の高齢者の15％程度が「軽度認知障害（MCI、認知症予備軍）」と言われており、この物忘れの理解は今後ますます重要になってきています。

医療現場では、簡単な認知機能検査や生活状況の聞き取りが行われ、加齢による物忘れか認知症かを判断しています。気になる場合は早めに専門医に相談し、適切な診断を受けることが大切です。

早めの理解と対策が安心へのカギ

物忘れは加齢でも起こる自然な現象ですが、その質や影響の大きさで認知症との違いは見極められます。

専門的な知識がないと、なかなか見極めることが難しい物忘れと認知症。また、認知症の初期症状は、「物忘れ」だけとは限りません。「怒りっぽくなった」「最近の出来事が覚えられない」「日付や季節がわからなくなる」「お金の管理が雑になった（計算ができなくなるため、常に高額紙幣を出すなど）」といった変化も見逃せないサインです。

不安になったら「いつもの忘れ方と違うか？生活に支障はあるか？」をチェックし、気になる症状があれば早めにかかりつけ医や地域包括支援センターに相談し、必要に応じて神経内科や老年科などの専門医を受診することが勧められます。

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監修者：林裕章（はやし・ひろあき）
林外科・内科クリニック（https://www.hayashi-cl.jp/）理事長

国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、全身を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域を支えている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、また医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
日本外科学会外科専門医、日本抗加齢医学会専門医