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「物忘れ」「歩行が難しい」→“認知症”と思いきや別の病気かも…医師が教える『見極めるポイント』とは?【医師が解説】

  • 2025.6.23
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「最近、親の物忘れが激しくなった」「歩くのがだんだん難しくなってきた」。そんな変化を感じると、まず頭に浮かぶのは『認知症』かもしれません。しかし実は、同じような症状を見せる他の病気が潜んでいることも多いのです。

正確な診断を受けずに認知症と決めつけてしまうと、適切な治療やケアが受けられないリスクも…。この記事では、物忘れや歩行困難の背景にある病気の違いや見極めのポイントを、医師の視点からわかりやすく解説していきます。

認知症と決めつけるのはちょっと待って

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出典:photoAC(※画像はイメージです)

認知症は高齢者に多く見られ、記憶障害や判断力低下、歩行の不安定さを伴うため『物忘れ』や『歩行が難しい』という症状だけで認知症を疑うことは自然です。しかし実際には、こうした症状は他の病気でも起こることがあり、誤診や見過ごしを防ぐためには慎重な判断が重要です。なぜなら、認知症と似た症状を示す病気には、治療法などが大きく異なる場合があるからです。

特に、正常圧水頭症や脳卒中(脳梗塞・脳出血)、うつ病、ビタミン欠乏症などは、物忘れや歩行困難を引き起こすことがあります。これらは認知症とは異なり、適切な治療により症状改善が期待できるケースも少なくありません。つまり、『物忘れ』などだけで認知症と判断せず、多角的な検査で正確な原因を探ることが必要になります。

知られざる『認知症と似た病気』の特徴と見極めポイント

では、具体的にどんな病気があり、どう見分ければいいのでしょうか?代表例をいくつか挙げてみましょう。

  • 正常圧水頭症(NPH)
    水頭症とは脳にある脳脊髄液がなんらかの理由で滞り、脳室が拡大する病気のこと。慢性的に脳室が大きくなることで記憶障害や歩行障害、尿失禁などを引き起こします。『歩幅が狭くなる』『すり足』『歩くときに足がすくむ』などの歩行異常が比較的早期に現れ、MRIやCT検査で脳室の拡大が確認されます。さらに脳に直接脳脊髄液を抜く検査をして症状が改善すればNPHの可能性が高まります。NPHは外科的に治療可能な場合が多いので、早期発見が重要です。

  • 脳卒中の後遺症
    脳梗塞や脳出血の後に記憶障害や運動障害(歩行困難)が起こることがあります。脳卒中による認知症と言う概念もあるため厳密にわけることは難しい場合もありますが、MRIやCTで鑑別できることも。主に身体機能に影響を及ぼした脳卒中の場合はリハビリや専門的治療によってかなり改善することもあるため、早期の正しい診断がカギになります。

  • うつ病
    高齢者のうつ病でも『物忘れ』のような認知機能低下が見られ、時に仮性認知症と呼ばれることもあります。うつ症状が強くなると、集中力が落ち物忘れが増加しますが、治療により認知機能は回復することが期待できます。

  • ビタミンB12欠乏症や甲状腺機能低下症
    これらの代謝異常も認知機能低下や歩行障害を引き起こすことがあります。血液検査で診断可能であり、早期に補充療法を行うことで症状の改善が期待できます。

このように、物忘れや歩行困難の原因は多岐にわたり、症状だけで認知症と決めることは危険といえます。そもそも認知症という言葉はアルツハイマー型認知症を指すことが多いですが、脳血管性認知症やレビー小体型認知症など実際には様々な種類があり、それぞれ治療法が大きく変わることがあります。

もし気になる症状があるときは、まずかかりつけの医師に相談し、そこから神経内科や精神科などの専門医を受診し、適切な検査を受けることが大切です。

多方面からの診断を

年を重ねると『物忘れ』や『歩行が難しい』と感じることは珍しくありませんが、だからといってすぐに認知症と決めつけるのは危険です。正常圧水頭症や脳卒中後、うつ病など、認知症と似た症状を示す病気は思いのほか多いものです。適切な検査や診断を受けることで、治療可能な病気が見つかることもあり、生活の質を大きく改善できる可能性があります。

大切なのは、物忘れや歩行の変化を感じたら、早めに専門医に相談し、単なる認知症の疑いにとどまらず、多方面からのアプローチで原因を見極めること。本人の不安を少しでも減らし、最善のサポートにつなげていきましょう。


監修者:林裕章(はやし・ひろあき)
林外科・内科クリニック(https://www.hayashi-cl.jp/)理事長

国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、全身を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域を支えている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、また医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
日本外科学会外科専門医、日本抗加齢医学会専門医